99人が本棚に入れています
本棚に追加
序章 中東生物災害
ある日の満月の夜、賑やかな都会の隅で静まり返った住宅街。ある民家の屋根に悠然と立ち、なんの感慨も感じさせない瞳を事件現場へ向けている少年がいた。
彼の名は『黒野影仁』。タイツのような紺の戦闘服の上に漆黒のマントを羽織り、左右の腰には西洋風の剣が一本ずつ。顔には奇妙な仮面をしていた。顔面の中心を境に、半分が人、半分が鬼というものだ。誰が見ても不審者だと思うだろう。
「……」
影仁の冷たい目線の先には、車から慌てて出てきた若い男女が二人。
彼らは、デートの帰りとでも言ったところか、住宅街の狭い路地で車を走らせていたが、運悪く飛び出してきた人影をはねてしまった。
すぐ停車しドアを開け、倒れた人に声を掛けるが反応はない。人を轢いてしまった二人は、真っ青な表情で顔を見合わせる。
いつになっても動きはなく、やがて彼らは周囲をキョロキョロとせわしなく見回すと、被害者を放置して走り去ってしまった。
決定的瞬間だ。
「……」
しかし、屋根に立つ影仁は倒れた人から目線を外さない。ひき逃げ犯のことなど眼中になく、ただ轢かれた人だけを凝視していた。
最初のコメントを投稿しよう!