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やがてそれは、のろのろと立ち上がると、ゆっくり歩きだした。どこかに向かっているという様子はなく、ただフラフラと彷徨っているようだった。暗闇に蠢いている姿は闇の住人とでも言ったところか。
影仁は屋根伝いに闇の住人のすぐ近くまで移動し、その姿をよく確認する。
「――見つけた」
その声に反応するように、ゆらゆらと彷徨っていた闇の住人は空を見上げた。
「……アァァァ……」
――シュッ!
鋭く風を切る音と共に、影仁が降り立った。
闇の住人は慌てることなく、影仁に掴みかかろうと右手を伸ばす。しかし、その腕は肘から先が無くなっていた。
そしてもう一閃。
血飛沫と共に首が落ちる。
「――桐崎、標的は始末した。すぐに離脱する」
抑揚のない低い声が宙を彷徨う。
しかし周囲に人影はない。
『了解。ご苦労さま、影仁』
落ち着いた低い声は、機械を通して影仁の耳に届く。彼は、剣を腰に納め血の付いたマントをその場に脱ぎ捨てると、暗闇に溶け込んだ。
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