序章 中東生物災害

2/7
前へ
/521ページ
次へ
 やがてそれは、のろのろと立ち上がると、ゆっくり歩きだした。どこかに向かっているという様子はなく、ただフラフラと彷徨(さまよ)っているようだった。暗闇に(うごめ)いている姿は闇の住人とでも言ったところか。  影仁は屋根伝いに闇の住人のすぐ近くまで移動し、その姿をよく確認する。 「――見つけた」  その声に反応するように、ゆらゆらと彷徨っていた闇の住人は空を見上げた。 「……アァァァ……」  ――シュッ!  鋭く風を切る音と共に、影仁が降り立った。  闇の住人は慌てることなく、影仁に掴みかかろうと右手を伸ばす。しかし、その腕は肘から先が無くなっていた。  そしてもう一閃。  血飛沫と共に首が落ちる。 「――桐崎(きりさき)、標的は始末した。すぐに離脱する」  抑揚のない低い声が宙を彷徨う。  しかし周囲に人影はない。 『了解。ご苦労さま、影仁』  落ち着いた低い声は、機械を通して影仁の耳に届く。彼は、剣を腰に納め血の付いたマントをその場に脱ぎ捨てると、暗闇に溶け込んだ。
/521ページ

最初のコメントを投稿しよう!

99人が本棚に入れています
本棚に追加