第八章 最後の鬼人

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「――ばあちゃん」  全ては美佐代から始まった。彼女が蒼を十五年もの間、真心を込めて育ててくれたからこそ、今の蒼がある。彼の芯の強さは美佐代からもらったものだ。 「師匠……」  ヘージとの出会いが蒼の運命を変えた。彼は、ホームレスで暇人でだらしのない男だったが、戦いを教えるときは決して適当なことを言わなかった。おかげで蒼は、戦い抜く術を身に着け、今日までなんとか生き残ってこられた。  そんな師匠は最後、その身を挺して蒼を絶望から守り抜いた。彼から鬼穿の技術を教わったことこそ、なによりの誇り。 「五班のみんな……」  技術五班での日々は、この絶望的な世界にあってなお、温かった。これまでの辛い出来事で傷ついた心もいつの間にか癒されていった。 湯芽林はどこか師匠に似ていた。普段は脱力しているようで、やるときはきっちりやる、頼れるリーダーだ。彼はいつだって蒼のことを気にかけ、その言葉に励まされたのは一度や二度ではない。  竜道はクールで他人と関わることを避けていたが、心の底では家族や心優しき人たちを想い、仲間たちと道を違えてしまった。アンドレを殺し、千里を傷つけた彼を憎みきれないのは、共感できてしまうから。だから蒼は、獣鬼を全て蹴散らし彼の家族が戦わないですむような世界に変えると誓った。  アンドレはいつも蒼に元気をくれた。蒼がどんなに辛いことがあっても悩んでいても、アンドレの活気あふれる笑顔が蒼の支えになっていた。彼の守ろうとした日本の文化を、自分も守りたい。それが蒼の嘘偽りない気持ちだ。  そして千里。気高く美しい女性。彼女は蒼の憧れだ。彼女の存在が心の中でどんどん大きくなっている。この感情をなんと呼ぶのか蒼はまだ知らない。それを知るためにも、生き抜き千里を守り抜くという強い想いを胸に秘める。だから彼女には、もう危険な戦いに赴かずただ待っていてほしい。自分の帰りを。
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