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ようやく本拠地へと辿りつき、建物に入ると、そこら中で断末魔の悲鳴が響き阿鼻叫喚の巷と化していた。
「――兄さんっ!」
影人は先行していた弟と合流し、心の中で安堵した。
荒んだ日常の中でも、たった一人の家族への愛は残っていたのだ。
「宗次か。一体なにが起こっている」
「僕にも分からないよ」
影仁などよりも感情豊かな宗次は、眉尻を下げ不安げに瞳を揺らしている。
しかし右手に持つ剣からは、したたり落ちるほどの血が付いており、激戦を潜り抜けてきたのだと分かる。
「そうか……とりあえず散開だ。手分けして司令部を探すぞ」
司令部なら何かを掴めると考えたのは、影仁の直感だった。これはおそらく、敵にとっても予想だにしない事態に違いないと。
「でも、固まって動いた方が……って兄さんっ」
宗次が答えようとしたときには、影仁は駆け出していた。
事態は刻一刻を争う。
背筋を這いあがる恐怖感を紛らわせるため、今すぐにでも動きたかったのだ。
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