序章 中東生物災害

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序章 中東生物災害

 ある日の満月の夜、賑やかな都会の隅で静まり返った住宅街。ある民家の屋根に悠然と立ち、なんの感慨も感じさせない瞳を事件現場へ向けている少年がいた。  彼の名は『黒野影仁(くろのかげひと)』。タイツのような紺の戦闘服の上に漆黒のマントを羽織り、左右の腰には西洋風の剣が一本ずつ。顔には奇妙な仮面をしていた。顔面の中心を(さかい)に、半分が人、半分が鬼というものだ。誰が見ても不審者だと思うだろう。 「……」  影仁の冷たい目線の先には、車から慌てて出てきた若い男女が二人。  彼らは、デートの帰りとでも言ったところか、住宅街の狭い路地で車を走らせていたが、運悪く飛び出してきた人影をはねてしまった。  すぐ停車しドアを開け、倒れた人に声を掛けるが反応はない。人を()いてしまった二人は、真っ青な表情で顔を見合わせる。  いつになっても動きはなく、やがて彼らは周囲をキョロキョロとせわしなく見回すと、被害者を放置して走り去ってしまった。  決定的瞬間だ。 「……」  しかし、屋根に立つ影仁は倒れた人から目線を外さない。ひき逃げ犯のことなど眼中になく、ただ轢かれた人だけを凝視していた。  
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