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松の声に心配の気配を感じ、リンドウはそれ以上話さなかった。吸い上げた水を沸かせるほどの衝動の正体に思い当たったのだが、言えば老松の寿命に関わりそうだ。
もう一度あの手に摘み取られたい。自分のために罪を犯してくれた人の、手の中にいたい、なんて。
罰を受ける男の過ごす時間は、辛く悲しいものだろうか。そうだったらいい。人にとってリンドウが、悲しむ者を愛する花ならば、彼が悲しんでいてこそ、自分は彼にふさわしい。
沈黙を訝しむ松に、何でもないと嘘をつく。
愛しい手の持ち主の、悲しみを願う罪深さ。それを悪いとも思わず、この一生が終わったら、男と同じ場所で罰を受けたいと願う悪徳。
リンドウは優しいと言ってくれた松には到底、明かせない。包み込まれるようで好ましかったはずの松の影さえ、見ていられなくて目をそらした。
視線の先で茎だけの彼岸花が、招くように風に揺れる。
それが咲いた姿も知らないというのにーーそれはおまえよりずっと誠実で優しい花だとーー体のどこか暗い深みで、ほかならぬ自分自身の声に、教えられたような気がした。
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