謎な鉢植えと偏屈な俺

1/1
前へ
/1ページ
次へ

謎な鉢植えと偏屈な俺

俺は人が嫌いだ だから仕事以外では極力人に関わらない様にしている 外食はしない 店員や他の客が煩わしいからだ 外を歩くなら路地裏を選ぶ すれ違う人ですら煩わしく、いつも険しい顔をしているか能面かのどちらかで、露骨に避けられるからだ 学生とすれ違うと必ず挨拶される 俺の地域では不審者には先に挨拶して気勢を削ぐ様にと、その様な教育をしているらしい スーパーやコンビニでの買い物が一番の苦痛だ 必ず他人が居るし、俺の必要な物の前でだらだらとくっちゃべっている時は、思わず舌打ちしそうになる 俺は思う 何故こうも他人は無駄な行動をするのか? 目的に向かってさっさと向かい、必要な物を即断で決定して必要な手続きをしてさっさと離れる 何故これが出来ないのか? だらだら向かって、目的地に着いてから目標を考えてだらだら選択し始め、選択後も他の選択肢を探しながら手続きし、離れるのもだらだらと自分本意な移動したり、挙げ句の果てにはたむろを始めたりともう目も当てられない 全員が全員そうではないが、大なり小なりそういう所がある 俺が気に入らないのは、そう言った行動が他人の行動を阻害している事に気付かずのうのうとしてられるのか?という所だ 人の中に居るなら他人も居る 自分が他人の行動を制限していないか? 自分は常識通りに振る舞えているか? 自分は他人に見られていても恥ずかしくない自分でいるか? 自分は真っ当か? 何故これらを意識しないで平然と生活出来るのかが、俺には理解が出来ない だから人が嫌いだ そんな俺だが、ふと暇な時間が出来た時には周辺の散策も兼ねて目的地に大回りで行く事がある ここに引っ越した時は人のいない時間(主に夜中だが)良く散策していたが、その時に気になる店が有った 俺の散策ルートには夜の町もあり、表通りを避ければ静かで良い息抜きにもなる そんな寂しい裏通りでひっそりと開いている花屋があった 夜の町では花屋や薬局、コンビニは開いてる事が多いけど大体は表通りだ こんな誰も来ない所でやってるのはあまり聞かない そんな不思議さもあってか、母の日が近いのもあってか、ほんの気まぐれでその花屋に入ってみた 中は普通で良くある小さな花屋だった 店員は・・・と、若い女性1人だけだった (妙に気になる綺麗というか妖艶というか・・・) 品揃えも1点を除いて至って普通だった で、気になった1点だが・・・土のみ入った鉢植えだ しかも1つしか無い上に金額の欄も「不明」としか書かれていなかった いつもならこんな目的も価値も用途も「不明」な物には興味も出ないし、ただの荷物にしかならないから気にも留めないが、何故か今日は気になった まぁ、歩きながら他人の周りを如何に見ないかについて脳内で議論してたからか、思考がが変な方向に気まぐれで向いたんだろう 一応値段を聞こうと店員を探そうとしたその時、すぐ後ろから声を掛けられた 「そちらが気になる方は珍しいですね」 心臓がビクッとしたね 基本的に俺は周りをかなり気にしていて、他人がどう動いているかは把握する様に気を付けているし、邪魔になりそうならすぐ端に寄ったりと準備しているが、今回は全く分からなかった それくらい謎な商品に注意を逸らしていたのだろう 「これはいくらですか?」 何にせよ俺は目的を決めたら即断してさっさと帰りたいから、必要な条件だけ確認するべく金額を聞いた 買えない金額ならどうにもならないからな 「こちらは・・・お客様で決めて良いですよ?不明なのですから・・・」 ??? こんな値段の提示、初めて聞いたがフリーマーケットみたいな物かこの店独自なのか? まぁいいや、 それなら用途を聞いて適当な金額・・・他の鉢植えの花と同額支払うか 「これは種でも植えてある物ですか?」 店員は微笑を浮かべて答えた 「種はもう蒔かれてます・・・後はどう育てるか、育てる方によって咲く花が決まります」 う~ん、胡散臭いな~ 昔のシーモ◯キーとかガチャみたいなもんか? まぁ良いや 「水かけるだけで育ちますか?」 「水だけで十分ですよ」 また意味深な微笑で答えた 「他のと同じ金額払いますし、袋も無しで良いのでそのままで持っていきますね」 店員は金額も確認せず会釈して離れていった 「またのご利用をお待ちしています」 この時、俺はもうこの店には来れない気がした 謎な鉢植えを持って帰ってきてから、贈り物の花を探すと言う目的を忘れていた事に気付いた まぁ、俺も万能では無いし目的の一部を忘れる事も多い 母の日もまだ先だしまた今度で良いか 取り敢えず水でもかけて育てて、花がそれなりなら鉢植えごと渡せば処分にも困らんしな 鉢植えを育て始めて1、2週間でちょこちょことした芽が出てきた まだ品種が分からないが、多く芽が出るものはある程度間引いた方が良いらしい 取り敢えず他に被さる芽は排除してみた 水も土が湿るくらいにあげた まぁ、この調子なので当然母の日は過ぎた 母の日に花を買おうとあの店に出向いてもみたが、始めから無かったかの様に痕跡すら見つけられなかった そうこうしている内に鉢植えも育ち、結構大きくなってきたのでだんだんと特徴が出てきた 葉は地面に広がる様に増え、棘も出てきた 見覚えある物で近い物だと・・・タンポポ?菊?な感じだった まぁ、暇な時に水やって花が咲くまでほっとけば良いし、枯れてしまっても良いやくらいな気持ちで育ててるから気にならなかった だんだんと季節も変わり世間は海や山、女の話で持ちきりな夏になった まだ花は咲かないが、葉の中心から茎が伸びてきてその先は膨らみ始めていた う~ん・・・何かどっかで見た様な・・・? まぁ、そろそろ咲くだろうしその時考えるか 俺は夏はあまり好きじゃない ただでさえ自分本意な他人が、夏を理由に非常識な行動を「許されている」と勘違いして、さらに煩わしくなってくる季節だからだ そしてそれは行事や祭り、催し事をいい事にわんさか湧いてくる で、俺の勤務先でも懇親会として河川敷でのパーティーが毎年行われていて、毎回俺はうんざりしながら参加させられていた そしてそれは今週末だった まぁ、仕事だから仕方ないしそこまで非常識は居ないからそれなりに参加して帰るか 当日、開始は昼前だが早めに帰るので準備を買って出てたので、数人の同僚と先に会場に来て準備をしていた ある程度準備を整えたが、開始時間までまだ少しあったので河川敷を散策してみた 夏という事もあり、様々な植物が青々と生えていた そんな中に、ふと見覚えのある植物が目に入った 近寄って見てみると、ここ最近家で毎日見ている植物が生えていた 「どうしたんです?」 同僚の女性が声を掛けてきた 彼女は同じ課の後輩で、準備などを年功序列もあってか、いつも押し付けられている少し気の毒な奴だ 「いや、この草の名前が気になってな」 あまり馴れ合いたくないが、仕事上の付き合いがあるので無愛想には出来ないし、この植物の名前を知りたいのもあったから試しに聞いてみた 「これ、アザミですよ?何処にでも生えてる奴ですね」 あ~・・・そういや子供の時に何度かこの棘で痛い思いしたな~ 「ありがとう」 「どういたしまして、先輩!」 名前を思い出したのは良いが、こう絡んでくるのはな・・・ どうにか懇親会も抜け出し、うんざりしながらも家に帰った後、いつもの様に鉢植えを確認するともう花が開いていた 花は紫色で花びらという感じではない物で、小さな菊なイメージな花だった ・・・まぁ、微妙だな 少しがっかりしながらもどうするか、と考えてあるとある事を思い出した 「・・・後はどう育てるか、育てる方によって咲く花が決まります」 どういう意味だろうか? そういや、花には「花言葉」とか言うのが有ったな! 思い立った俺はネットですぐに「アザミ」の花言葉を調べた 結果はすぐに出た どれどれ、花言葉は・・・ 「触れないで」「厳格」「独立」「人間嫌い」 ははっ・・・言い得て妙だな こうも俺の性格通りとは・・・ ・・・もう一度、あの花屋の店員に会いたいな 〜完〜
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加