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ボクは大きく息を吸って、止めた。
噎せ返るような、錆び付いていて寂しげな匂い。
きっと発生源は、このあたり一面を埋め尽くす、無造作に捨てられた金属製の部品たち。かつて此処は、工場地帯か何かだったのだろう。
冷たくも火照った、赤錆色の世界で、ボクは大きく息を吐いた。
近くにあったパイプに腰掛け、持参したカフェラテを口に含む。
ふと、遠くに黄色いテープがバツを描いて貼られていることに気付く。まったく、罪悪感のある甘さだ。
ボク自身も踏まえて、こんな風景には似合わないだろう。
でも、コレがボクの日課。
社会から離脱し、たまにこのお気に入りの場所に来る。
それが安心感を得るためか、背徳感に浸るためかは分からないが、幸せを感じられることは確かだったから。
「えっ」
思わず声を漏らした。
音がしたものだから、顔をそっちに向けると、そこには小さなロボットが立っていた。
誰かが作ったものだろうか。悪戯にしては手が込んでいる。円らな瞳のそれは、じっとこちらを見つめている。
「……ごめんね、ボク一人がいいんだ」
だから他を当たって、と遠回しに拒否感を伝える。
「宇宙人。ニンゲンいらない。地球いる。ほしい」
ボクは言葉を見失う。
この機械が喋ることも驚きなのに、自らを宇宙人だと名乗る。ツギハギの日本語だけど、並べる言葉はそれっぽい。
ホントにこの子、なんなんだろう。
「話、したい」
「キミさ、いらない人間と喋って楽しい?」
人間の言葉に乗った意味が分かるのかは知らない。
でも、退屈しのぎにはなるかなぁ、と思った。
「いいよ、じゃあここ座って」
それから、長い長いお話が始まった。
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