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 ざわざわと伝わる周りの話し声に、何となく居心地が悪くてきゅっと唇を噛み締めた。横にきっちり編み込まれた三つ編みが零れ落ちて視界に入る。誰もそんなことをしている人は新しいクラスメイトの中にはいなくて、私だけが浮かれているようでちょっと恥ずかしい。 ──同じクラスになれてよかったね! ──今年もよろしく~  ぐっと胸が締め付けられる感覚が嫌で、そそくさとその場をあとにした。友達を作りたくて残ってたけど……もう、限界。これ以上、あそこにはいられない。いたくない。  舞い散る桜に見送られながら、私は校門の外に出て家への道のりを歩いて行った。 ♢ 「あーあ、結局友達作れなかったなあ…」  ぽつりとこぼして、一つ溜め息。見上げた空は悲しいほど綺麗に澄んでいた。  私は、先月この町──桜花(おうか)町に引っ越してきた。お父さんの仕事の都合で。こういうことはよくあったけど…ここまで離れた場所に引っ越すのは、初めて。これまでは仲良くなった友達と会える距離だったけど、もう会えない。二時間も電車に乗らなきゃいけないし、それにだってかなりお金がかかるし。  ざあ、と風が吹いて桜の花びらが舞い上がった。町中に桜の木が植えてあるこの町は何となく落ち着くけど、今は桜を見てもあの舞い上がるような楽しい気持ちにはなれない。
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