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「朝顔の花びらの準備よし。魔法陣の準備よーし。」
朝日がほんのりと街を灯す午前5時、美花は自室で、スマホを片手に例の「朝顔のおまじない」とやらの準備をしていた。机には、真っ白な朝顔とネットで調べた謎の魔法陣の描かれた紙が並んでいる。
別にこのおまじないを本当に信じているんじゃない。これは、ただの気晴らしのようなものだ。心の何処かで感じているおまじないへの抵抗を和らげるように、美花は胸の内に何度もそう言い聞かせた。後は、呪文を唱えるだけか。美花はスマホを置き、すうっと息を吸った。朝のしっとりと濡れた空気が肺を満たす。
「朝顔様、朝顔様。お願いです。私と赤木奈緒を友だちにしてください。」
どくどくと心臓が騒ぎ出す。閉じていた瞳をギュッと瞑る。ぞわっと腹の底が、氷水を浴びるように、冷たくなっていく。空気がしんと張りつめる。
「分かりました。」
針のように鋭く尖った男のこえがした。それと同時に、身体を奇妙な物体が、締めていく。自分の体に何が起きているのか、恐くて確かめることができない。だんだんときつくなっていく得体の知れない束縛に美花は、声のない悲鳴をあげた。ただただ恐怖だけが身を包む。
ふっと何かのほどける音がした。氷のように冷えた手先にじんじんと感覚が戻っていく。美花は、ゆっくりと瞳を開けた。いつも通りの自室を目にして、美花はほっと胸を撫で下ろした。また、いつもと変わりない憂鬱で退屈な1日が始まる。そう思っていたはずだった。
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