堕ちる

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ぼんやりと目の前に広がる天井の色が、いつもよりワントーン明るく感じた。 目が覚めるとふわりと漂ういつもの史の甘い香りが、しない。 天井に手を伸ばすと、いつも着るスウェットの袖がない。 そしてなにより、ベッドが広い。 史の一人用のベッドは、男ふたりが眠るにはなかなか窮屈だ。 記憶がじわじわと戻ってくる。 横を見なくても、最悪の状況が頭に浮かぶ。 (うそだろ……まさか) 首だけをおそるおそる横に向けると、背中を向けて眠っている男。 もちろん史のわけはなく。 少し暗めの茶髪。柾と同じぐらいの体格だが、持田の方が若干細い。 血の気が引いた。 お約束のようにそっと布団をめくりあげる。 柾も、持田も全裸だった。 めまいがして、枕に頭が落ちる。あわてて横を向いたが、持田が目を覚ます気配はない。 (そ…そんなはず、ない、どんなに酔ったって、そんなこと…絶対ない!ありえない!) 流されやすい性格で、強引にかつての恋人に関係を迫られて許してしまった経緯はある。でも、前後不覚なまま誰かと寝たことはなかった。 背筋が凍る。 ベッドから降りて服をかき集める。ネクタイは結ばずに、コートも手に持って部屋を出た。 そこは、15階建てのマンションの一室だった。 玄関を出て、あたりを見回すと、見たこともない街の景色が広がっていた。 大きな通りに出てタクシーに手を挙げ、柾は史のマンションの住所を告げた。 時刻は、午前7:30。
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