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憮然とした表情で山田の前を行き来した吟子、山田は
スーパーの風景を楽しんでいるようにも見えた。
「善良な客ばかりじゃないんだよ、中にはヨコシマな奴も
いるんだから」
山田が目を付けそうな客を見渡した。
今度は刺身のパックを手に取ってひらひらさせながら
前を歩いている年配の女性の袋の中に入れる振りをして離れた。
振り返って山田を見ると目が点になっていた。
やっと気が付いたようだね、よく気が付いたと吟子が
山田に言おうとした時、山田が小走りになって年配の女性に接近した。
女性はレジを通り店の外に出て数歩歩いたところで山田が突進してきた。
万引き犯を確保する方法も教えてなかった。
「万引きしたな!ちょっとこいっ!」
山田はしたり顔で事務所に引っ張って行った。
「あらら、えらい事になっちゃったよ!」
吟子も慌てて事務所に行った。
事務所で山田はめちゃくちゃ恐縮していた。
「すみませんでした!僕の間違いでした、ごめんなさい!」
土下座して謝っていた。
自信満々で買い物袋を空けたが刺身のパックは入ってなかった。
「ほんまにどないなっとんねんここの店は、善良なお客さんを
泥棒扱いしてからに、大恥かいたんやでどないすんねん!」
万引き犯と間違われたサキは怒り心頭だった。
店長が丁寧に誤りを詫び店の商品を数点サービスしてくれた。
「まあ、それやったらもろとくけど精神的苦痛は残るからな、
この店の客が一人減ったと思ときや」
足早に事務所を去るサキを吟子が追いかけた。
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