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嘘の始まり
堂守涼也には、見た目が瓜二つの双子の兄である晶也がいる。
中身は、わりと自分勝手で素直ではない晶也と、思っていることが顔に出る素直な涼也とで違うのだが、昔から周囲に間違われることがしばしばあった。
そして、昨日の夜、晶也はいきなり思いつきでこんなことを言い出した。
「なあ、試しに俺と涼也で一週間入れ替わってみねぇ?」
「な、なんでいきなり……」
「面白そうだろ。昔から思っていたんだよ。俺らが入れ替わって気付く奴がいんのかなって。こうしようぜ。期限は一週間として、その期間内に気付く奴がいたらそこで入れ替わりは終わり。気付かなかったとしても、一週間が最長な。で、誰も気付かなかったら、またいつか入れ替わろうぜ」
「ええ、すぐばれるんじゃない?だって見た目は一緒でも、俺と晶也じゃあいろいろと違うところあるし」
「それも俺らのことよく知ってる奴ならな。あ、家族や親友はなしだからな。いつも一緒にいる奴は気付く可能性高いし。なんとか口止めして、あんまり俺らのこと知らない奴が気付くまでだからな。じゃ、明日からな。おやすみ」
「えっ、ちょっと晶也!俺はやるとか言ってな……」
涼也の言葉を綺麗にスルーして、晶也は部屋から出て行った。晶也が自分勝手で強引なことはいつものことだが、今回ばかりは本当に困ったことになった。
それでも、心のどこかでは晶也の言い出した遊びを面白そうと思っている自分もいて、その好奇心に抗えなかったから入れ替わることにしたのだったが。
翌日の放課後、早々にこのゲームが嫌になるとは思ってもみなかった。
晶也ともさほど仲がいいとは思えない真琴に声をかけられ、告白されたのは嬉しい。
けれど、入れ替わったその日に告白されたということは、真琴は当然晶也が好きで、晶也に告白したつもりなのだ。
だけど、今打ち明けたところで気まずくなるだけだし、何よりも、いけないと思いつつ、甘い夢に浸っていたかった。
告白を了承した直後、真琴は自然に片手を差し出してきて、その手を取って繋いで帰った。
無論、このことは絶対に晶也には黙っていなくてはいけない。
本当は打ち明けなくてはいけないのだが、そうすればこの時間は終わってしまう。
ずっとこのままというわけにいかないし、いつかは打ち明けなくてはいけないというのは分かっている。
それでも、今だけでも許してほしい。
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