嘘でもいいから

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嘘でもいいから

「堂守、俺と付き合ってくれないか」  放課後、目つきが悪く、怖いと有名な竹島真琴に誘われて下校していた時だった。  人気のない通りに出た途端、真琴に突然告白された。  きっと他の誰かがこう言われたなら、恐怖のあまりごめんなさいと叫びながら逃げるか、脅しに屈するように不本意ながら付き合うかもしれない。  しかし、実際に告白された堂守涼也は、全く違う心境で動揺していた。  嬉しくて堪らない。でも、この告白は自分に向けられたものではないんだと。  そうと分かっていながらも、涼也は真琴から目を逸らしつつ、返事を口にしていた。 「別に付き合ってあげてもいいぜ」  それは、涼也であって涼也ではない素っ気ない返事の仕方だったが、真琴は目つきを柔らかくして嬉しがった。 「よっしゃ。じゃあ、今からお前は俺の恋人だな」 「あ、ああ……」  その笑顔に勝手に顔が熱くなる反面、内心では悲しみがじわじわと広がっていく。  勘違いしてはいけない、真琴が好きなのは自分ではないのだ。一週間だけでいい、嘘でもいいから自分と両想いだと夢を見させてほしい、と。  涼也がそう思うのも無理はなかった。何故なら、今涼也は兄の晶也と入れ替わっていたからだ。  
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