担当さん私の作品愛してますか?~ドS編集者とJK作家の溺愛恋愛事情~

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白いカーテンの隙間から差し込む光と、朝の冷たい空気を感じて机の上で、有澤雪華は目を覚ました。 目の前にはスリープ状態のPC。 その近くにはいくつもの原稿が散らばっていた。 雪華は顔を上げ、額に手を押さえながら昨夜の事を思い出す。 昨夜夜遅くまでPCで小説の原稿を書いていて、そのまま寝落ちしてしまったのだ。 そして雪華はふと壁に掛けている時計へと目をやった。 その瞬間。 (いけない! 完全に寝坊しちゃった!!) 雪華は目を見開き、机から立ち上がると、急いで自分の部屋を飛び出して行った。 部屋の長い通路を走り、通路から右側へと曲がると居間へと出た雪華は、居間のテーブルの前で座布団の上に座って新聞を読んでいた自分の祖父へと話し掛けた。 「ごめんなさい……。おじいちゃん寝坊しちゃって……」 申し訳なさそうな声でそう言われ、紺色の甚平を身に纏い、白髪の髪をオールバックにした雪華の祖父で ある宗次郎は雪華の存在に気が付くと、読んでいた新聞から目を離し、雪華へと笑いながら言った。 話し掛けた。 「ごめんなさい……。おじいちゃん寝坊しちゃって……」 申し訳なさそうな声でそう言われ、紺色の甚平を身に纏い、白髪の髪をオールバックにした雪華の祖父で ある宗次郎は雪華の存在に気が付くと、読んでいた新聞から目を離し、雪華へと笑いながら言った。 「そんな事気にしなくていいんだよ。寝坊ぐらい誰にでもあるわい。それにあの真面目過ぎる雪華が今まで寝坊一つしないでいた方が逆に驚きじゃよ」 「でも朝ごはんが……」 時計を見た限りでは少なくとも今朝の7時30分で、とてもではないが今から朝食を作っている時間は無さそうだった。 僅かに気落ちしながらする雪華に宗次郎は言った。 「安心しろ。メシならとっくに出来ている」 そう言われ雪華はテーブルの方へと目を向ける。 テーブルの上には焼き魚、だし巻き玉子、味噌汁、ご飯と言うと和食そのものが並べられていた。 それを見た雪華は内心驚いた。 祖父である宗次郎は元々一人旅が好きで、よく雪華の幼い頃から知らない土地、知らない外国の地方へと度に出ていた。 家に居着いたとしても二年も持たないうちに、すぐにまた新しい外国の地へと出かけてしまう。 いつまでも少年のように好奇心旺盛で、新しい景色を見るのが何よりも好きな祖父に、よく雪華の祖母と母親が呆れたような顔をしていたのを今でも覚えている。 だけど雪華はそんな祖父が好きだった。 帰った時にはいつも自分が知らない世界の話をしてくれたり、おまけにその土地のお土産までくれる。 お土産はもちろん嬉しかったのだが、何よりも楽しみだったのはみやげ話だった。 それは雪華が好きな本のように聞く度にわくわくさせてくれた。 何よりも楽しそうに話す祖父の顔があの頃の自分は好きだったのだ。 だからいつも旅ばかりしていた宗次郎が料理をするイメージが雪華の中では結びつかなかったのだ。 「凄い……これおじいちゃんが作ったの」 「おいおいワシだってメシぐらい作れるよ。それも一年ぶりの可愛い孫娘と久々の朝メシってんだ。そりゃぁ張り切って作るだろう。それにお前をびっくりさせたかったわけじゃしな」 宗次郎はニカッとしながら言った。 そして。 「着替えておいで雪華」 「うん」 雪華はバタバタとした足取りで居間から出て行こうとした。 が、そこで雪華はふと足を止めて宗次郎の方へと振り向いた。 「おじいちゃん有難う」 嬉しそうににこっとを宗次郎へと笑った。宗次郎から向けられた優しそうな表情を見て雪華は再び自分の部屋へと急いだのだった。 雪華は先程のパジャマ姿の格好とは違い、長く透き通るような銀髪を綺麗に整え、白のシャツに赤色のネクタイ、その上からピンクのカーディガン。 その下には紺色のスカートに黒タイツと言った格好へと変えていた。 居間のテーブルにつき、宗次郎と向かい合うように座って二人で朝食を取る。 宗次郎が作る朝食はどれも美味で、とくにだし巻き玉子と味噌汁が絶品だった。 普段宗次郎が家を空けているため、雪華はほぼこの家で一人暮らしと言った状態だ。 雪華の家は元々昔からある大きな屋敷で部屋数もそれなりにあり、今雪華がいる居間も15帖の広だ。 一人では無論、二人暮しでもかなり広すぎる家だった。 それに加え、雪華は一人暮しの時は基本料理は全て自炊をしている。だけど今日は自分が作ったのではなく、祖父が作ってくれた朝食だ。 自分が作る以外の手料理を食べたのはどれくらいぶりだろうか……。 そう思いながら味噌汁を一口飲んだあと、目の前にいる宗次郎へと話し掛けた。 「おじいちゃん今回はどの国に行って来たの?」 焼き魚を食べていた宗次郎は、雪華の言葉を聞くと嬉しそうによくぞ聞いてくれたと言わんばかりに嬉嬉として話し始めた。 「今回はなイタリアのベネチアに行ってきたんじゃ。水の京都と呼ばれるだけあって、とても美しい街並みをしておった。しかも川と海が多い街だったから他の街から街へと移動する時ゴンドラを使って移動していたんじゃ」 「ゴンドラってあのテレビとか、よくたまに本とかに載っているやつ?」 不思議そうな顔をして宗次郎へと雪華は聞いた。 イタリアのベネチアと言う街は水の京都と呼ばれている程、街の全体の殆どが川が多い街並みと呼ばれている。 その為か移動手段の殆どがゴンドラを使用される事が多い。 だがそれと同時にゴンドラに乗ってベネチアの美しい街並みを観光する客も多かった。 ゴンドラに乗って美しい街を眺めているだけでもそれだけでも充分に楽しめる。 この前たまたま目にした雑誌などにそう書かれていた。 「そうじゃ。そのゴンドラじゃ。あの光景はいくら眺めていたとしても飽きない。そのくらい美しかったよ。そうだ雪華、お前に土産があったのを忘れておったわい」 宗次郎は、テーブルの近くに置いていた自分の旅行用の茶色のボストンバックの中からあるものを探しながら、 「おっ、あった。あった」 目的のものを取り出すと、それを雪華へと差し出した。 宗次郎から小さな白い袋を差し出された雪華はそれを受け取った。 雪華は袋を開け、自分の手のひらに袋の中身を出した。 中からは白い銀色の十字架のかたちをしたチャームが出て来た。 宝石に似た石で出来ているようで、それはキラキラと光輝いていた。 「綺麗……」 チャームを眺めながら思わず小さく呟く雪華に宗次郎は満足気な表情を浮かべた。 「お前に喜んで貰えて良かったよ。恥を忍んで若い定員に聞いたかいがあったわい。しかも何でも向こうの方では、これが若い子の間で人気で流行っていると言っておったかはのう」 「ふぅん。そうなんだ……」 確かにそのチャームならば若い子に人気なのも素直に頷けた。 小さな十字架をした宝石のダイヤモンドに近い石で出来た、見た目が可愛いものならば若い子、または女の子の間で人気になる事は間違えない。 しかもチャームな為鞄に付けたり、携帯のストラップに付けたり出来るのも利点の一つなのだろう。 「そう言えば帰ってくる途中で変な男を拾ったんじゃ」 「変な男? 犬とか猫とかじゃなくって……? 思い出すように言う宗次郎に雪華は不思議そうな顔を向けた。 もし犬か猫を拾ってきたのならば、すでに庭の外にでもいるのだろうか。 動物自体は嫌いな方ではないし、むしろどんな子なのか見てみたい気がする。 そんな事を思う雪華に宗次郎は否定の言葉を口にした。 「犬猫ならばとっくに連れて帰ってきている。実は拾ったと言うのは……」 その時。 ピリリリリっとスカートのポケットの中に入れている携帯のメールの着信音が鳴った。 雪華はポケットから取り出すと、メールと時間を同時に確認する。 現在7時45分。 ぎょっとし、すでに朝食を食べ終わっていた雪華は宗次郎から貰った十字架のチャームを再び紙袋に直して、自分の鞄の中に突っ込むと、 「ご馳走様」 そう言って慌てて玄関へと向かった。 靴を履き、玄関の戸をガラガラと言わせて出て行く。 その微かな音が居間へと届いた。 宗次郎は目の前にあった湯呑みを手に取り、小さく息を吐き、穏やかな表情をした。 ……元気になったようでなによりじゃな…… そう思いながら宗次郎湯呑みに入った緑茶を一口啜った。 丁度良いぐらいに茶葉の味が出ており、今日はうまい具合にお茶が入れられたと僅かに嬉しさを感じた。 それと同時に彼はある事を思い出した。 「しまった……。雪華に肝心な事を話すのを忘れていた」 少しだけ後悔を感じ、宗次郎は暫く考えたのち、 「まぁ、何とかなるじゃろう」 そう自己完結をして再びお茶を飲んだのだった。
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