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教室にある窓際の席に座り、雪華は携帯端末をいじっていた。
教室にはクラスメート達が挨拶を交わしたり、昨日のテレビ番組などの話題、その他の他愛無い話が飛び交っていた。
雪華は携帯端末に表示されている画面の文字に憂鬱な気分で溜息をついた。
それは先程雪華の担当から届いたメールだった。
『今日午後16時に次回作の打ち合わせの方宜しくお願い致します』
簡潔に綴られた文面。
(打ち合わせかぁ。何だか行くのやだなぁ……)
自分の中で気が重くなってしまう。
雪華は作家になって初めて本を出して以来、次の作品が書けずにいた。
初めて初版で出した本は評判が良く、重版なども掛かりかなり売れた。
初めて作家デビューとして初版で出した本が沢山の人の目に触れてもらっている。
それだけで幸せな気分だった。
だが一作目が好評だった分、二作目にも周囲の期待が高まる。
一作目が面白かった。
じゃぁ二作目もきっと面白いに違えない。
それは周囲からは当然の事だった。
読者からそれだけ期待をされている。それは作家としては喜ばしい事であり。
だが同時にその声は重い言葉だった。
一作目よりも面白いものを書かなければ。
その言葉は周囲の期待に応えたいと思う反面自分自身にプレッシャーとして、重く、重く伸し掛る。
それも呪いのように。
そのプレッシャーに苛まれ、雪華は思うように筆が動かずにいた。
あまり気は進まないが行かない訳にはいかない。
雪華はそう思い短い文面を携帯画面に打ち込み、送信をする。
そしてふと窓の外へと視線を向けたその時。
キンコーンカンコーンとしたチャイムが鳴ると同時に、ガラッと教室のドアが開かれた。
雪華は教室のドアの方へと視線を向けた。
教室に入ってきたのは漆黒のような黒い髪の男だった。
雪華は思わずその男に目を奪われた。
男が入って来た事にも気づかないのか、クラス中の喧騒はまだ続いていた。
そんな中で男は、
「おい、お前ら席につけ」
そう耳障りの良い低い声で告げた。
けして生徒に大声で告げたのではなく、よく通る声だった。
その声にクラス中の声がピタリと止まり、生徒達は自分の席へと着いた。
男はそれを一瞥し、教壇の方に立つと再び口を開いた。
「今日から井澤先生の変わりにこのクラスの担任を受け持つ事になった"嵐山カイト"だ」
カイトは一度言葉を切り、そして苦笑混じりの表情を浮かべた。
「まぁ、担任と言っちまったが臨時だからこのクラスの担任が新しく来るまでの短い間になるが宜しくな」
それは見るからに人当たりが良い好青年のような印象だった。
教師と言う大人のようなものではなく、どちらかと言えば顔が整った大学生のような印象。
簡単に述べてしまえば一見見た目クールだが中身は優しく面倒見が良さそうなイケメン教師。
そんな教師へと「ヤバイ超イケメンじゃん!!」「センセー!彼女いるの!」「居ないのなら私立候補しちゃう」と女子から黄色い声が上がり、男子からは「……男かよ」
「あーあー俺美人の担任を期待していたのになー」などと言われていた。
そんな光景を見ながら雪華は驚きを隠せずにいた。
担任がイケメン教師だからではない。
そもそも彼のその顔自体が表向き。
本当の彼は誰に構わず言いたいことを言い、思った事を口に出す。
しまいには面白い事が大好きで、人をからかう事をいきがえとしたドS。
悪魔のような男。
その事を雪華自身は良く知っていた。
(……最悪だ……)
生徒達から質問攻めに合うカイトをチラリと見、雪華は内心ため息をつく。
その時カイトと思わずバチッと目が合った。
彼は雪華の顔を見、一瞬目を細めて唇の端をつり上げた。
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