55人が本棚に入れています
本棚に追加
/60ページ
放課後。
雪華は学校の廊下を一人不機嫌な顔をして歩いていた。
……本当に今日一日最悪だった!!……
そう思い歩く速度が無意識にズカズカと早足になる。
原因はあの臨時で来た担任教師だ。
彼は自分の授業でまるで狙ったかのように雪華に当て、授業で使う資料などを雪華に運ぶように命じた。
しかも他のクラスで使用する資料を。
それだけならばまだ良いが断る事に理由を付けて雪華に色々仕事を押し付けていた。
あまりにも押し付け過ぎだと思い、言い返してやろうかと思ったが事実上彼は教師で、自分は生徒と言う立場だ。
仕方なく雪華はカイトにイラッとしながらも仕方なく従った。
またそれに従う雪華の反応をみながら、わざとからかってくるカイトに雪華は苛立ちを少しずつ募らせていった。
(まさか臨時教師が私の"元編集担当"だったなんって……)
そう心の中で悪態をつく。
雪華の元編集担当"嵐山カイト"
彼は雪華の初めての担当編集だった。
切っ掛けは雪華が出した小説作家新人賞で雪華の作品が彼の目に止まったこと。
初めての担当編集だったので彼に初めて会った時は酷く緊張した事は今でも鮮明に覚えている。
雪華自身担当と作家の話は知り合いから聞いた事があった。
もし怖い人だったらどうしょう……。
担当と意見が合わなかったらどうしょう……。
会う前から多少なりとも不安があった。
だが実際に会ったら爽やかな人当たりが良さそうな顔をして「一緒に頑張ろう」と言ってくれた。
それを見てこの人なら上手くやっていけるかもしれない。そう思った。
だが実際はそれは表面上だった。
彼、カイトは雪華に厳しかった。
雪華が書いてきた原稿をボロクソに言ったり、ストーリーの構成にダメだしをしたり、挙句には読む価値もないと言ってのけたのだ。
仕舞いには最初から書き直せと言う始末。
普通なら担当からここまで言われたら自信を無くしてしまったり、泣き出してしまう事だってあるのだが、雪華はカイトに食ってかかった。
そんな雪華をカイトはさらに挑発し、また雪華も作品に対してプライドが高いのかカイトの納得するものを絶対に出してやる!との気持ちでカイトが全て出したリテイクを意地になって受けていた。
カイトの言い方は悪いが編集者として作品を見る善し悪しはある。
まだ作家になったばかりの雪華ですらもカイトの能力の凄さが分かる程だった。
だが自分の作品を酷く罵られるのは誰だっていい気持ちはしない。
雪華とカイトは作家と担当者の関係でありながら互いに喧嘩しながら作品を作っていた。
何故急に編集者を辞めた彼がここにいるのか分からない。
だがいくら臨時の担任になったからといって、どうせ残り数ヶ月までの期間だ。
それに自分の担当編集だって新しい編集に変わっている。
どうせ後数ヶ月の期間だけだ。
彼に関わらないようにしょう。雪華はそう思い、心の中でそう誓った。
そうこう考えているうちに雪華は目的の場所───図書室へとたどり着いた。
そしてドアを開き、彼女は図書室の中へと足を踏み入れた。
図書室には誰もおらず、カウンターには係委員の女子生徒がいた。
生徒が誰も居ない為暇なのか、係委員の生徒はカウンター席で本を読んでいて雪華に気づいている様子はなかった。
雪華はそのままカウンターの前を通り奥の方へと歩いていく。
最初のコメントを投稿しよう!