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「おい、黒木。俺にも雪華と愛梨の原稿を見せろ」
「突然やって来て何なんですか!?先輩は関係ないでしょう」
明らかに不愉快そうに言う黒木にカイトは黒木を鋭い瞳で睨み、冷たい声音で一言放った。
「うだうだ言ってねぇで、見せろ。こいつは俺の作家なんだよ」
「…………」
カイトの声音に気圧された黒木は渋々カイトに雪華と愛梨の作品を渡した。
カイトは二人の作品を黙ったまま真剣な表情で読み進めた。
暫く沈黙が続いたあと。
作品を読み終えたカイトはテーブルの上に原稿を置くと黒木に言い放った。
「お前、自分の利益の為に作家の作品を利用してるんじゃねーよ!」
「は?利益?先輩が何のことを言っているのか俺にはわかりません!」
「しらばくれるなよ。お前愛梨のネームバリューが欲しいんだろう?この企画を成功させるためにはな」
「!?」
カイトの言葉に黒木は顔色を変えた。
その言葉に対して愛梨は怪訝な表情を浮かべた。
「お前は愛梨のネームバリューと作品の質が欲しくって、わざと愛梨の作品を選んだんだ。雪華の作品が愛梨の作品に買っていることを知りながら」
「その言葉は言い掛かりです。先輩は有澤さんの元担当だからそんなことを言ってるんです!知ってますよ。先輩、有澤さんのことをえらく気に入ってましたもんね!有澤さんにお願いをされたのですか?でも、俺は作家の作品を平等に見ての判断を下しました。自分の私情や利益など一切含んでいません!!」
「そんなに編集者として自信があるなら、この原稿をWebにアップして読者投票でもしてやろうか?俺は圧倒的に雪華の『拝啓 大嫌いな先生へ』の方が勝つし、面白いと思うけどな」
「くっ……」
黒木はカイトの言葉に顔を歪めた。
愛梨はカイトへと納得がいかないと言った言葉でカイトに食ってかかった。
「カイト、どうして私の作品があの子の作品に負けたって言うの!?カイトも読んだでしょう!!私の作品は感動的で素晴らしかったはずよ。それがどうしてなのよ!?」
「確かに、お前の作品は良かったよ。だけど、今回の作品に対しては作品の設定やリアリティが掛けていた。ほんの些細な部分だが違和感が感じられたんだよ。だけど雪華の作品はリアリティと意外性が強く感じられた。先の見えない作品はそれだけで読者の期待が高まる。お前達の作品の違いはそれだった」
カイトの評価に愛梨は黙った。
彼の作品を見る評価はいつも正しい。
だからこそ、愛梨はそれ以上何も言えなくなってしまった。
「黒木。お前さ、以前も自分が拾ってきた作家に同じようなことをやっていただろう。その作家のネームバリューだけを見て、作品のクオリティを上げず、また作家を育てもせずに連載をさせて、作家をつぶしていたよな?」
「それのどこが悪いと言うんですか!この業界では本が売れなければ終わりだ。だからこそ、ネームバリューや話題性が必要になってくる。そこで売れずに書けなくなった作家は自業自得だ。その作家に力がなかったと言うことだ!」
黒木は開き直りカイトに強く言い放った。
「お前、本当にクズだな」
吐き捨てるように呟いたあと、カイトはドアの方を一瞥して、ドアの方に立っている人物に一言投げかけた。
「だとよ。どうする岩瀬編集長」
打ち合わせ室のドアの方に壁に背を預け、両腕を組んでいた岩瀬の姿があった。
(岩瀬編集長!?どうしてここに!?)
驚愕する黒木に岩瀬は黒木達の元へと行くと、
酷く冷たい表情で黒木に告げた。
「黒木さん。実はあなたに対して他の作家達から苦情やクレームを受けているんだ。きみのやり方についてあとから詳しい話が聞きたいんだけど良いかな?」
「………はい」
岩瀬の言葉に黒木は頷くしかなかった。
岩瀬は雪華達の方へと向き直ると、二人に謝罪の言葉を口にした。
「白崎先生、ユキカ先生。お二人には大変申し訳ないことを致しました。編集長として謝罪致します。本当に申し訳ありませんでした」
「そんな謝らないで下さい。編集長のせいではありません。それに作品自体はまだ掲載前でしたので大丈夫ですよ」
「そうですよ」
雪華と愛梨の二人は謝罪する岩瀬に慌ててそう言った。
「寛大な心有難うございます。もしお2人さえよかったら、お二人の作品を『ドリーム·ブック』の方に連載をさせて頂けませんか?白崎先生もユキカ先生も力がある先生です。お二人の作品ならば読者達が喜ぶかと思いますが、如何でしょうか?」
愛梨との勝負は結局は分からずじまいになってしまった。
だが、突然の岩瀬の申し出に雪華は戸惑いながらも、彼に何か答えようとして口を開きかけたその時。
「悪いけど、雪華は俺がもらう」
「え?」
雪華は驚きながらカイトに視線を向けた。
カイトは彼女に構わず言葉を続ける。
「俺の出版社『Light』の看板作家にする。だから、ここでは書かない以上だ」
カイトの言葉に雪華は混乱した。
カイトの出版社?
自分をもらう?
一体どういうことなのか、頭の整理が追いつかなかった。
「立て、行くぞ」
「え?あの、嵐山さん!?」
カイトはそう言って、雪華をその場から連れ出してしまった。
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