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夕方。
一人街の中を歩きながら、雪華はため息をついた。
「はぁ……。またダメだったか……」
数十分前。
彼女は担当編集と次の作品に関しての打ち合わせをして来たのだが、プロットがまだ通らないでいた。
キャラクター性や構成はクリア出来ている。
だが今一つ工夫が足りない。
読者を意識しなければならない。
そう告げられた。
(そうは言っても、読み手の顔を浮かべながら書くのって難しいよ……)
一作目の時は何も考えずに、ただひたすらに物語を綴た。
あの時は病院で入院していた小説が好きな母の為に、母が楽しんで読んでくれれば良いと思って書いたものだった。
そんな母はもうこの世にはいない。
(でも、期待してくれているんだもん。頑張らなきゃいけないよね)
そう思い、雪華は茜色に染まる空を見上げた。
そんな時。
ガバッ
「雪華、匿え!」
突然、背後から誰かに抱きしめられて、動揺しながら、視線を横に動かす。
そこにはあの元編集担当の嵐山カイトの姿があった。
「嵐山さん!!」
カイトに後ろから抱きしめられている為、彼と雪華の身体が密着している。
あまりの突然な出来事に、雪華の鼓動は早鐘を打ち、動揺した。
「離して下さい!!急に何なんですか!?」
「今、生徒に追われてるんだよ!少しの間は恋人のフリをしろ」
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