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「だって、私だって生徒……」
そう言いかけて、雪華はハッと自分が今私服姿だったことを思い出す。
雪華は仕事の打ち合わせがあると、学校の近くにある駅前のロッカーの中に私服を預け、
それに着替えてから、いつも打ち合わせに行っていたのだ。
「何も気にすることないだろう?すぐ済む。大人しくしてろ」
「ちょっ……」
カイトは後ろから抱きしめながら、雪華の顔へと自分を近づけた。
彼の顔が彼女へと迫る。
彼の黒い双眸が雪華を射抜くように真剣に見つめる。
キスまでの数センチの距離。
「先生やっぱり彼女いたじゃん~~!せっかく追い掛けてきたのにぃ」
「つまんなーい。もう、行こ。行こ」
雪華からは女子生徒の姿は見えないが、変わりに声と、彼女達がその場からバタバタと走り去る音が聞こえた。
「よし、もう行ったか……」
カイトは雪華の身体を離した。
(何これ。心臓の音が煩い……)
顔を赤くして、ドキドキと心臓が鳴る雪華。
そんな雪華の姿を見てカイトはふっと笑った。
「おい、雪華。お前がここにいるってことは峯岸と打ち合わせだったんだろ?今度の新作は順調か?」
「もう、担当ではないあなたにお話することはありません」
「お前、俺に対して冷たくね?塩対応じゃん」
「別に、普通ですけど。私はもう帰りますので、じゃあ、さようなら先生」
雪華はカイトに冷たくそう言うと、踵を返してその場から歩き出した。
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