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「お前、このあと仕事は?」
「これで終わりです」
「なら、ちょうどいい。お前も忙しいだろ。早く終わらせて恋人との時間でもつくったらどうだ」
「!」
「どうなん?話聞かせろよ」
恋バナ大好き男がニヤニヤと顔を寄せてきた。
「いいんですか!?聞いてくれます!?」
「おう、聞く聞く」
リシには恋人がいる。もちろん秘密だ。インタビューなどで恋愛や恋人のことを聞かれるのは毎度のことだが、その度に「いない」と言っている。それが指示であり、恋人からの要望でもある。
リシは隠したくはない。本当は喋りたくてたまらない。しかし、スーパーアイドルと呼ばれ、多くのファンに支えられている自分たちの『恋愛』や『恋人』が世間にどういう騒ぎを起こすのか、相手をどう巻き込んでしまうのか、それは恋人と間違われてしまったリーダーの妹オルメカを見て痛いほどわかった。あれを見たら、簡単に恋人の存在を公表しようとは思わない。巻き込んだら、きっと迷惑をかける。傷つけてしまう。
レブロには態度でバレてしまった。嘘をつくのが下手だとよく言われるし、自覚もある。リシからしてみると、大好きな大好きな恋人のことを隠すなんて無理に決まっている。
レブロは数少ない、惚気を聞いてくれる貴重な人物。
「はあ!?一緒に住んでんの!?」
「はい」
「……一般人だっけ?恋人」
「はい」
「いつ知り合ったん?」
「同級生で」
「あ~~……なるほど。なるほどな。つーか、それこそドラマじゃん。一緒にこっちに来たとか?」
「いいえ。こっちで再会しました」
「再会愛か。それも燃えるな」
リシはデビューするために。恋人は学業のために故郷バンスピラン州から王都に出てきていた。
そこからリシの怒涛の惚気と恋人自慢が始まった。リシに恋人がいることは一緒にいるメンバーにもバレているが、基本的に他人の恋愛事情には興味がない面々ばかりのため、詳しくつっこまれることはない。リーダーだけが色々と心配して聞いてくるくらいだが、恋人の素性についてはまったく聞いてこない。
リシもメンバーの恋愛事情は知らない。聞いても話したがらないメンバーも多く、週刊誌で知ることもあるくらいだ。
「昔から惚れてたのか?」
「今思えばそうだったのかもしれません。自覚はしてませんでしたけどね。でも、当時から憧れてましたよ。めっちゃかっこよかったんで」
「ほぉ~」
「なんかね、空気が違うんですよ!凛としてるというか、そこだけ凪いでいるというか!わかります!?」
「あ~……なんとなくな。ということは、お前とは真逆なわけだ」
「……ごもっともで」
「お前の話を聞く限り、群れず、馴れ合わずなタイプだろ。よく言えば孤高、悪く言えば孤立」
「孤高!孤高です!!」
「はいはい。孤高な。まぁ、そんなやつからすればお前はまったく合わないか気に食わないか、どっちかだろうな。絡まれても迷惑っつーか、関わってくれるな的な」
「うっ…」
「お前はこの世界で生きるために生まれたような男だ。スター性もカリスマ性も抜群、愛される才能を持った天性の人気者。パラオキメキスは粒ぞろいだと思うが、お前を初めて見た時から『センター以外ありえない』と思ったしな。ドラマでもお前を脇なんかに置いたら主役が食われる。まぁ、その点この映画のキャスティングはうまい。お前の相手役が俺だからな」
リシは笑った。彼らしいし、この自信はいつ聞いても清々しい。
「そんな男の周りには当然人が寄ってくるだろうし、騒がれる。よく付き合えたな」
「そりゃもう……押して押して押しまくりましたから」
「ほぉ~~~。さすが砂漠の男」
押して引くなんて駆け引きは一切なし。ただ気持ちのまま、一直線にぶつかり続けた。
「両想いって最高ですよね」
大好きでたまらない人がやっと恋人になった。恋人にしてくれた。この状況に浮かれないわけがない。
「ほんっと、恋人大好きなんだな」
「そりゃもう!」
「心底惚れてるのはいいけど、隠しきれてないぞ。ダダ漏れだからな。だから俺にバレたの忘れるなよ」
「うっ…」
痛い所を突かれた。
「でもさ、その恋人すごいな。マジでドラマじゃん。スーパーアイドルに溺愛される一般人。しかも元同級生の再会愛だろ?てんこもりじゃん。大ヒット間違いなしって感じ」
「レブロさんは恋人いないんですか?」
「……」
少し間が空き、レブロは大爆笑した。
「っはははは!やっぱりお前イイよな」
「なにがです?」
「そういうのをいきなりぶっこんでくる感じ。しかも、それが許されるってのがデカいよな」
「そうですか?レブロさんの方が許される方だと思いますけど」
「っははは!よく言われる。それが俺の魅力でもあるからな。えーと、恋人?恋人はいねぇな」
この発言。嘘なのか本当なのかわからない。
「俺は家族第一優先だからな。それに家が家だしな」
レブロこそてんこもりの男だ。名家出身のαで、顔がいい。自分が勝てない本物がいたからと芸能の世界に入ってきたが、頭もいいし運動もかなりできる。この男の周りのレベルが高すぎるだけだ。
リシはレブロと接する度に「この人はジラシ家の人なんだ」と実感する。
人をしっかり見ているし、実はかなり警戒している。人を素直に受け入れるようでそうではない。王や王族に関することは、なにをどんな風に聞かれようが絶対に喋らない。
芸能人というだけで、態度や眼の色を変えてΩの自分に寄ってくる人たちがわんさかいるくらいだ。ジラシ家出身となると、想像を絶する世界なのだろうと思う。近づいてくる者たちがどんな思惑を抱えているのか、示された好意が本物かどうかわからない。
根っからの善人と言われ、Ωらしい不幸や不運とは無縁で育ってきたリシも一時期人間不信になりかけたが、そんな時に出会ったのが今の恋人。
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