ヘルズスクエアの子供達~パートⅠエッグのお話

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 おまけに、ラムネ二個半と黄色のチョークを一本あげて、やっと許してもらったんだ。  まあ、スワンプで溺れないでくれて、それだけでも良かったよ。 [僕]  まだ他にも、あげた物があるんじゃないの? [マッシュ]  クソッ、何で知ってるんだよ、エッグ。内緒だぜ。キャンディの母さんに知られたら 「子供にそんなのまだ早いわ」とか何とか、俺が思いっきりどやされちまう。 [僕]  ピンクの口紅、あげたよね。三か月前に、ヘル・マーケットで見つけたやつ。だいぶすり減ってたけど・・・。 [マッシュ]  お前ってやつは、何でも知ってんだな。  でも、いいだろ。実際、キャンディは可哀想だったぜ。  他のみんなだって、うまく発音できないのは一緒なのに、笑われたんだ。辛かったんだから、特別なご褒美があってもいい。  キャンディのやつ、すぐにニコニコ顔になったぜ。 [僕]  まあね。それはそうだけど。  レインに気付かれないようにね、ご用心。 [マッシュ]   レイン?彼女はもう、口紅なんかにキャアキャアいう年じゃないだろ。俺より年上なんだからさ。  何言ってるんだよ、エッグ。レインは気にしないよ。 [僕]  口紅の事は気にしなくてもね。"マッシュがあげた"って所は、気にするかもしれないよ。 [マッシュ]  なんでだ?わかんないな。 [ウィロ]ー  アパ・・・アジャ・・・アパジャマ・・・ アパジャマザマウス? [マッシュ]  パジャマだと?パジャマザマスっていったのか?何だそりゃ、ギャハハハ。 [僕]  アパトサウルスだよ、アハハハハ。 [ウィロー]  ちょっと、何、大笑いしてんのよ?笑い飛ばすのは良くない事なんでしょ?私も泣いて、スワンプまで駆けて行くわよ!  僕は今でも、あの時の事をはっきりと思い出せる。どんなに楽しく笑った事か。目に見えるように、鮮明に残る思い出。  ミザリー・リバーの真ん中。霞む月明かり。ゴツゴツしたロック(岩)に座る、僕ら三人。  大好きだった友、マッシュ。本当に好きだった。彼のあの笑顔。  ウィロー。ほっそりとした、まるで妖精の様に、掴みどころの無い美しさを持った、不思議な少女。  でも、今はどうしているかな・・・とは、あえて考えない。  彼等は僕の心の中に、あの時のまま生きている。あの時のままの姿で。それでいいんだ。
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