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2・
どこで、どんな風にして、そもそもウィローと知り合ったのか、不思議に思えるだろう。
なんと言っても、ウィローはヘブン・スクエアの住人で、本来なら、絶対に顔を合わせる事がないはずだったんだ。僕らの間には、入ってはいけない〈壁〉があったから。
でも、あの日、僕とウィローは出会った。
暗やみ団地では、ちょうど夕食が済んだ所だった。母さん達、おばさん達が、にぎやかにオシャベリしながら総出でつくる、何というのか、一種のごった煮。
僕ら子供達が、ヘル・マーケットで調達してきた食材を、何でもかんでもブチ込んだシロモノで、外見は不気味な事、この上もない。
でもね。お腹が空いてれば、どんな料理も、五つ星のレストランレベルになる。ヘルズ・スクエアでは、一日一食が基本だったからね。いつだってすごく空腹で、それが普通で、だから、夕食がひたすら楽しみだったよ。
夕食の後はいつも、体を寄せ合ってのお話タイムなんだけど、その日はクリスタルが突然、ワアワア泣き出したんだ。
ヘル・マーケットに、赤いジャケットを忘れたって、この世の終わりがきたみたいに、悲劇的に泣きわめく。
とてもキレイなジャケットでね。もちろん、お古のお古の、そのまたお古なんだけれど、チューリップを模った銀色のボタンがズラリと付いていて・・・ああ、今でも目に見えるようだよ。クリスタルはとっても大事にしていたんだ。
大人達は、いかにも大人が言いそうな事を言ってた。明日の朝にしなさい・・・誰も取ったりしませんよ・・・大丈夫だから・・・。
ちっとも大丈夫じゃない。雨や霧に一晩中うたれたら、ジャケットは痛んじゃう。
女の子って、物も人もなんだかゴッチャにするんだよね。「ジャケットちゃん、泣いてる・・・」「ジャケットちゃん、一人ぼっちで可哀想・・・」それが、クリスタルの考え方なんだ。
という訳で、僕がジャケットを取りに行くハメになった。
デット・ローチ・アレーからルインズ・ロウを通って、ドライ・ボーンズ・アレーへ。
暗くなり始めてたから、小さな女の子を一人で歩かせたりできないよ。心配で心配で、居ても立ってもいられなくなっちゃう。
もちろん、ヘルズ・スクエアには悪い奴なんか一人だっていないから、本当は怖がる必要なんかないのかもしれない。住人全員、顔見知りなんてレベルじゃない。家族状態なんだからね。大きな町とは違う。
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