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それでも、やっぱり・・・。クリスタルが夜道をトボトボ歩いていく姿を想像しただけで、僕は嫌だ。かといって、泣かせたままでいるのも嫌だ。
落ち着かない気分でイライラしてるより、思い切って、トットと行っちゃった方がいいじゃない。
みんなの体温で温もった部屋を出るのは、ちょっと辛かったけど、そんなに寒い晩じゃなかったし、散歩も悪くはない。
ヘル・マーケットに着いた時には、もう月が昇っていた。
地理上の位置のせいかな。ホープ島は、夜も真っ暗にはならない。かすかに肌を濡らす霧雨に滲んで、溶けてなくなりそうな丸い月が、薄暗い夜空に霞んで見える。
僕は、ヘル・マーケットを囲む〈壁〉に取り付けられた鉄のドアに向かって、まっすぐ歩いて行った。
サビだらけで、ギーギーどころか、ギャイギャイいうドアを、力任せに押し開ける。あちこちにそびえ立つゴミの山の黒い影。
ヘブン・スクエア側の壁の一か所に、ジャケットが引っ掛けてあった。ゴミの中に落ちたりしないよう、キチンと注意深く掛けられて、風にかすかに揺れている。銀色のボタンが、ほのかな月明かりにキラキラと輝いていた。
ジャケットを手に取ってハッピー・ベビーの事を考えた。
次に、キレイなジャケットを見つけたら、あの子にやった方がいい。今はキューティのお古の、茶色のジャケットを着てるんだけど、ハッピー・ベビーも、ギュンギュン音を立てんばかりに、背が伸びてるからね。手首が袖から、にょっきり出ちゃってるんだ。それに、あの子が好きな色は茶色じゃない。
白かブルーの品が落ちてたら、最高なんだ。それにパールの持っている金の星形ボタンを三つ、飾りにつけてあげて・・・。パールにはもう、約束を取り付けてあるから・・・。
そんな事をボーッと考えていたんで、ずいぶん近くに来るまで、ウィローの姿に気が付かなかった。実際、〈壁〉越しにバッタリ、顔を突き合わせるまで、わからなかったんだ。
ちょっと説明が必要かな?
〈壁〉はいわゆる、板壁でも石塀でもなくて、ただの金網なんだ。〈壁〉って呼んでるけど壁じゃない。これまたヘルズ・スクエア用語っていうやつさ。
だから、ヘル・マーケットに来れば、金網越しに、ヘブン・スクエアの方も、ほぼ見渡せるんだ。小さな島なんだし、ヘブン・スクエアの方が、ヘルズ・スクエアよりはるかに狭いからね。
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