ヘルズスクエアの子供達~パートⅠエッグのお話

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 この山は、衣類やボロ布を集めてあるやつで、ケガしそうな固い物や、尖った物は入っていないと知ってたからね。  山を崩さずに彼女を押し込むのは、かなり大変だったけど、これまた以前の経験が役に立ったんだ。  マネーマネーが、ブーブーの妹のシュガーベビーの背中に、チョークで 「ハナタレ」って落書きした時の事さ。  ブーブーは頭から湯気を立てて、マネーマネーを追いかけ回してね。命からがら、ヘル・マーケットに逃げてきたマネーマネーを、同じゴミ山の中に隠してやった。  それにしても、マネーマネーは本気で怖がっていたんだか。クスクス笑ってばかりでね。  でも、ウィローは笑っていなかった。彼女は真剣だった。  意外だったのは、懐中電灯の持ち主が、三、四分くらい辺りを照らしただけで、あっさり諦めて立ち去った事だ。事情はわからないながら、なんだか変に思えた。  僕は、ゆっくり百数えてから、やっとウィローを引きずり出した。  僕は何も質問しなかったけど、文明社会の常識としてなのか、彼女はとりあえず名乗りはした。でも、それ以外は何一つ、話さなかった。ウィローはまだビクビクもので、あたりをチラチラ見まわしてばかり。オシャベリどころじゃないのは明らかだった。その内、座り込んでシクシク泣き出した。  僕はと言えば、何が起きたのか、どうしたらいいのか、さっぱりわからなかった。でも、それでいいんだ。わからなくて当たり前なんだから、何も出来なくて当たり前さ。  こういう時、僕は・・・マッシュもなんだけど、黙って傍に座り、泣かせてやることにしている。  赤ちゃんはもちろん違うけれど、もう少し大きな子の場合、大抵、ただ泣きたいから泣いてるんだ。だから、好きなだけ泣かせてあげる。  三十分も泣けば、後は十分くらいボーッとなる。そして寝てしまう。嘆くのは結構、体力を使うもんだから、体が休息を求めるんだろう。そして、目が覚めた時は、結構サッパリしてるのさ。  ワイルド・ビーも、チャンキーも、ピーチもエンジェルも、サンダー・キッドもみんな、そうだった。  レインやサンシャインみたいに、年かさの子だって同じ。  だから、ウィローもそうだろうと思ったわけ。  案の定、彼女はやがて、ゴミの山に寄りかかって、泣き寝入りしてしまったよ。  ヘブン・スクエア側から発見されない角度なのを確かめて、僕はその場を離れた。
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