ヘルズスクエアの子供達~パートⅠエッグのお話

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 あんまり長いこと、ヘル・マーケットにいるわけにはいかないんだ。何が起こるか、容易に想像がつく。  まず、母さんが心配してクドクド言い出す。父さんは、大人達みんなを叩き起こす。みんなはみんなで、大張り切りに張り切って捜索隊を組み、貴重な松明に火をつけて、ヘルズスクエア中を引っ掻き回すに決まってる。  断っておくけど、ヘルズ・スクエアの連中は、ウィローを探していた連中とは違う。しつこい。僕を見つけるまでは、絶対に諦めないだろう。  僕と一緒にウィローも見つかったら、またまた大騒ぎが勃発する。できれば、避けたい展開だ。  暗やみ団地に戻ると、幸い、みんなはぐっすりと眠っていた。母さんと父さんとクリスタルだけが、チッポケな灯火を見つめながら起きていて、僕は、まるで土星から生還したみたいに、感激の涙で迎えられた。なかなか、いい両親だよね。  クリスタルは、ジャケットを抱き締めて、キスしたり頬ずりしたり。その顔を見れば、疲れもフッ飛ぶよ。ジャケットが生き物みたいに、優しく話しかけてて。  父さんと母さんは、僕の全身をくまなく調べ上げて、ちゃんと息もしてるし、心臓も動いている事を確かめると、やっと安心したんだろう。ストーンと眠ってしまった。  クリスタルの方は、もうちょっと厄介で、興奮のせいか、なかなか眠ってくれない。背中をトントンしながら、子守唄を繰り返し歌うこと八回、ようやく目を閉じてくれたけれど、寝息を立て始めてからも、僕の服の袖を握りしめて離さないから、困ったよ。  脱出は大変だったけど、ウィローを置きっ放しにしてきた事を考えると、グズグズしてもいられない。今までの経験上、三、四十分もすれば、目を覚ますだろう。  僕は、マッシュを呼び出す事にした。彼は、まだ起きているはずだから。  なにしろ悲しみ団地にはサンダー・キッドという強者がいる。この子ときたら、こっちの気が遠くなりそうなほど寝つきが悪くて、マッシュの頭痛の種なんだ。  どうしてなのか、さっぱりわからない。  サンダー・キッドは、一日中、ヘル・マーケットでせっせと働き、赤ちゃん達の行水監督も務めている。それ以外にも、缶ぽっくりの製作助手と、オヤツの分配係と、落し物捜索隊の三番助手の仕事もあるし、学校の宿題もやらなくちゃいけないし、もちろん遊びの時間も忘れちゃいない。  夜は疲れてぐっすり、のはずだよね?
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