ヘルズスクエアの子供達~パートⅠエッグのお話

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 エンジェルは、左足に重心をかけるクセがあるから、片足だけ深い足跡が残るんだ。  グリーンタンは、右足の親指が少し短いし、ギザギザしてるな。 [僕]  一歳半の時、ネズミに噛まれたんだ。  サンダーキッドは、土踏ずが他の子より浅いし、マネーマネーは、左の親指が曲がってる。四歳の時、骨折したからね。  アイドルワイルは足の外に重心を掛けるし、ワイルド・キャットは内側。   ピーチは、走る時だけ足を引きずる。  クリスタルは、どの指も同じ長さで見分けやすいけど、足も速くてね。 [マッシュ]  ブーブーは、かかとにでっかい古傷がある。あいつ、六歳の時、そこにバイキンが入って、ひどく腫れてさ。エッグがナイフで切って、膿を絞り出したんだ。その痕だよ。  それから、キャンディはな、右足だけ指が極端に短いんだ。悲しみ団地の柱が折れて、西壁の左端が崩れた時、下敷きになっちまって、そのせいだと思うんだけど。  それから、ドールときたら・・・。 [ウィロー]  全員の特徴を憶えてるの? [僕]  足だけだよ。 [マッシュ]  子供達の分だけさ。 [ウィロー]  信じられない。 [マッシュ]  一年三百六十五日、朝から晩までくっついてりゃあ嫌でも憶えるさ。家族なんだから。  ヘルズ・スクエアならではの遊びだって、エッグもさっき言ったろ?  もうそろそろ行こうぜ。まだ十分くらいしか歩いてないのにヘタばるとはな。我ながら呆れるよ。  道を進むのは止めて、横の草地を歩こう。そしたら、痛くないはずだ。 [僕]  いい考えだね。  痛くないってのは外れだったし、いい考えだっていうのも外れだった。  白い道の両側は、緑の草原に囲まれていた。何本かの木が大きく枝を広げ、月明かりに黒々とした影を投げかけている。  草原のあちこちに揺れている、白や赤の点々は、たぶん花だろう。  帰りには忘れずに摘んでいかなくちゃ、女の子達が喜ぶだろうな、そう思ったのを憶えている。  ヘルズ・スクエアから覗いていた時は、あんなに美しく、清々しく見えたのになあ。  草は、僕の足に刺さった。ツンツン尖って、とっても固い。冷たくて痛いし。変な臭いもした。  草原の草は、みんな作り物だったんだ。プラスチックで出来たニセモノ。
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