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僕達は、丸木で作られたように見せかけて、実はボロボロのコンクリート製の低い柵を乗り越え、庭に入った。ダイヤ百個の庭に。出来るだけ静かに。
ウィローのおじさん達は、家出した彼女を心配して、まだ起きてるはずなんだ。すくなくとも、そう信じたいところだ。
でも、窓は存在しないから僕達が侵入しても見つかることはない。ニセモノにも、いいところはあるってことかな。
庭のほぼ中央。斜めに傾いだ白樺の木(もちろん、ゴム製)の下に、小さな池があった。庭を突っ切る細い川が、その池に流れ込み、また流れ出て行ってる。
僕は池を覗き込んだ。マッシュは木の根元に座り込み、ウィローはキョロキョロと周囲の様子を見ている。
池には、溶けたバターのようにぼやけた月が写っていた。その下に、チラリチラリと何かが見える。赤や黄色や白の、小さな物。ヒラヒラしたものが付いている。
金魚だ。プラスチック製の。色はところどころ剥げ、白目を剥いているように見える。斜めに傾いでたり、逆さまに浮いてたり、池の底に横腹を見せて沈んでいるのも、何体かある。体の部分が割れて、水が入り込んだ為なんだろうけど、まるで喰われたみたいに見えて怖い。作り物だと解っていても、気持ち悪いよ。
これなら、サイクロンのペットのナメクジ(名前はスロー)の方が、ずっとマシだ。
キューティが飼っているミミズ(名前はスカーレット)や、グリーンタンが大事にしているノミ(名前はジャンプのチャンプ)も、今まではあんまり好きとは言えなかったんだけど・・・。この金魚達を見た後じゃあ、素直に可愛いって思えるな。
少なくとも、彼等は生きてるんだからね。
池は、ミント味のガムをイメージさせる、白くて細長いタイルを、隙間なく敷き詰めて作られていた。
微かにモーターの音がして、目には見えなくても、わずかに水流があるようだ。時折、沈んだ金魚達がクルリと回転する。お腹に開いたギザギザの穴が見えて、不気味だ。
池は浅くて、見たところ膝上くらいまでの水しかない。よく澄んで薬臭く、中心部では、ごく小さな泡がポコポコとたっていた。
僕は、ニセモノ草の上に片膝をついて、水の中をじっくりと観察した。
マッシュを見る。彼はニコッとした。ウィローはため息をついた。
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