ヘルズスクエアの子供達~パートⅠエッグのお話

44/52
前へ
/52ページ
次へ
 滅多にない、暖かな晩になった。天候までが、いつもと違う特別な夜を演出してくれた様に。僕らはニセ白樺の木の根元に、三人揃って座っていた。雨が止み、雲が消え、空が晴れた。月光が美しく輝き、昼間の様に明るい。瞬きすら忘れた。  ホープ島では、今までこんな事、一度もなかった。  湿気もなく、霧もなく、月や星までもが、くっきりと見えるなんて。   満月か。そう思った。  まるで、秘宝が呼んでいるみたいだと、そう思った。  ダイヤモンドの輝きはどんなだろうか。僕はそれを見て、何を感じるだろう。そう考えたら、そこでフッと笑いが漏れた。  なぜか、その笑いは苦かった。 7・ 「一時間、待つ」と言っても、僕達は誰も、時計を持っていなかった。  だから、僕はたびたび池の水面を見に立った。これは、と思った時にマッシュに声を掛ける。「マッシュ」と。それで十分。  マッシュはペンを持ってきて、ある場所を確認して印をつけ、僕に笑いかけては戻っていく。そしてまた座り、待つ。 [ウィロー]  さっきから、何やってんの?  まさかとは思うけど・・・。あなた達、謎を解いたんじゃないでしょうね?  [僕]  たぶん、わかったと思うよ。 [ウィロー]  そんなにあっさり、何よソレ。 マッシュもわかってるわけ? [マッシュ]  最初はてんでチンプンカンプンだったけど、エッグがヒントをくれたからな。すぐピンときたよ。 [ウィロー]  そりゃ、よかったわね。私にはちっともピンとこないんですけど。 [僕]  驚かないでいいよ、ウィロー。大丈夫。とってもシンプルな話なんだ。 [ウィロー]  だったら、シンプルに説明してよ [マッシュ]  お前さ「庭で一時間・・・」なんて、時間のこと聞くと、すぐに時計を思い浮かべるんじゃないか?チクタクいう、機械仕掛けのアレさ。 [ウィロー]  そうね。おじさんとおばさんも、そうだったみたい。  家中の時計を、バラバラに分解してたもの。万が一の事を考えてね。  でも、何も見つからなかった。 [僕]  さぞ、見物だったろうね。 [ウィロー]  傍で見ているかぎりはね。面白かったわ。   でも、笑っちゃ可哀想よ。  おじさん達は大真面目なんだから。髪振り乱して、必死なのよ。 [マッシュ]  お前達ヘブン・スクエアの人間にとっちゃ、時計と言えば、その時計しかない。   でも、ヘルズ・スクエアじゃ、訳が違う。だから、わかったのさ。
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加