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夜明けまで一時間はありそうだ。
僕達三人は、ロックに座ってる。
ミザリー・リバーの、どうしよもなく汚れた、ドロンドロンのヘドロ水を渡るのは、慣れてないウィローには無理なんじゃないかと、そう思っていたんだけど。
彼女はまるで気にする様子もなく、さっさと渡った。強烈な悪臭にも全く動じない。
どうしてもロックに行きたかったんだろうな。
僕達は朝日が昇るのを待ちながら、色々な話をした。ホープ島の事。ヘルズ・スクエアでの生活のこと。
ウィローは、自分の事はあまり話したがらなかったし、僕もマッシュも無理には聞かなかった。
空が変わっていく。黒灰色から紺へ。海の色も、黒から紺、そして柔らかな灰緑色になっていった。
奇跡だ。霧も雨も雲もない、晴れた空気。
誰も捉えられない瞬間、あたりがパアッと明るくなって、眩しい光が周囲に満ち溢れた。
夜明けだ・・・。
この日だけだったんだ。特別な、いつまでもきっと忘れる事のない、輝く太陽を見た。
傍らのマッシュ。顔を上げ、眩しそうに眼を細めて。キリリッと口を引き結び、静かに、でも堂々とロックに立つマッシュ。
座ったままのウィロー。もはや、見る影もなく汚れた白いワンピース姿で、眠そうに、満足そうに、ゆったりと微笑んで。
ウィロー。別の世界に住む少女。
僕はロックの真ん中に片ヒザをついた。ゴツゴツした岩に、小さな皮袋の中身をぶちまける。
その内、ヒザや腰が痛み出したけど、僕はダイヤを見つめたまま、動かなかった。
米粒の様に小さな宝石は、コロコロと転がり出てキラキラと輝いた。
やがて百個が集まり小さな山となって、凍りついたような、また同時に燃え上がる様な、不思議はきらめきの固まりとなる。
あっちこっちに光を反射して、マッシュの顔にもウィローの顔にも、虹色の光りの点が舞い踊り、美しかった。
今までに見たこともない、現実感のない輝き。
生き物の持つ美しさではない、そう思った。冷たく固く、どこか人を寄せ付けない、奇妙な魅力なんだ。
マッシュはチラリとダイヤを見ただけで、また海に向き直った。両手をズボンの小さなポケットに無理に突っ込んだまま、何も言わなかった。
ウィローはそっと手を伸ばして、ダイヤの小さな山を崩した。ほっそりとした白い指先を動かしてダイヤをかき混ぜ、じっと見つめて、ホッとため息をつく。
[ウィロー]
これは、あなた達が貰うべきよ。
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