父、娘を尾行する

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視線を感じたのだろうか。ふいに涼が振り返った。 少し色素の薄いこげ茶色の瞳が、まっすぐに私をとらえた。 私は、ササッと木のうしろに隠れた。 私は木……、私は木……。 目をつぶり、自分に言い聞かせるように心の中で唱えた。 三十秒数えて、目を開けた。 私は再び人間に戻り、コソコソふたりの背中を追った。 次の展示ゾーンには、なぜか水槽が並んでいた。 魚が気持ちよさそうに泳いでいる。水中植物のコーナーらしい。 ふたりは、水槽に額をくっつけるようにして、中をのぞきこんでいる。 「魚、かわいいね」 「あ、ちっこいエビがいる」 「どこどこ?」 無邪気なものだ。 夢香はまったく気づいていない。 そりゃそうだ。父親がデートを尾行しているなんて……。 私は、そっとため息をついて思った。 まったく何をやっているんだろう。 だがどうしても気になってしまうのだ。 ちっこいエビはどこだ? 否、エビなんてどうでもいい。 木の影に隠れつつ、順路を進む。
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