20人が本棚に入れています
本棚に追加
視線を感じたのだろうか。ふいに涼が振り返った。
少し色素の薄いこげ茶色の瞳が、まっすぐに私をとらえた。
私は、ササッと木のうしろに隠れた。
私は木……、私は木……。
目をつぶり、自分に言い聞かせるように心の中で唱えた。
三十秒数えて、目を開けた。
私は再び人間に戻り、コソコソふたりの背中を追った。
次の展示ゾーンには、なぜか水槽が並んでいた。
魚が気持ちよさそうに泳いでいる。水中植物のコーナーらしい。
ふたりは、水槽に額をくっつけるようにして、中をのぞきこんでいる。
「魚、かわいいね」
「あ、ちっこいエビがいる」
「どこどこ?」
無邪気なものだ。
夢香はまったく気づいていない。
そりゃそうだ。父親がデートを尾行しているなんて……。
私は、そっとため息をついて思った。
まったく何をやっているんだろう。
だがどうしても気になってしまうのだ。
ちっこいエビはどこだ? 否、エビなんてどうでもいい。
木の影に隠れつつ、順路を進む。
最初のコメントを投稿しよう!