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最後の展示ゾーンは、薔薇園になっていた。
蔓薔薇の絡んだアーチの下に、深緑のガーデンベンチがしつらえてある。
「わあ、綺麗。やっぱり薔薇は素敵だね」
「夢香、薔薇好きなの?」
「うん。女の子はきっと、みんな好きだよ」
「ふうん。そういうもん?」
夢香は花に顔を近づけ、フンフンと子犬のように匂いを嗅いだ。
涼はちょっと目細めて、周りを見渡している。
まずい、また目が合うかもしれない。
私は、壁にピタッと張り付いて隠れた。私は壁。私は壁……。
「ねえ、涼くん。これ読んで」
「は? 何?」
「ベンチのところに置いてあったの。花言葉」
例の企画展の封筒だ。
涼は封筒からカードを取り出すと、すずしい顔で言った。
「赤い薔薇。あなたのことを愛しています」
夢香が顔を覆って「キャー」と叫ぶ。
「ねえ、もう一回言って!」
「はっ? やだよ。何言ってんの、別に今のは違うし」
「え。違うの?」
「ち……違くない……けど」
「涼くん……」
「ああ、もう。さっさと行くよ」
涼が夢香の手を引っ張った。
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