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ろくでなし
まだ人のこころに昭和の残り香が染みついていた頃のお話です。
その頃は僕も小さくて、世の中のことなんか何にも分かっちゃいないくせに、それでいて何でも理解できるつもりでおりまして、賢しらなことを言っては大人を唸らせるのが好きな、そういう子どもでありました。
僕のお爺さんは片足でした。
地雷を踏んで吹っ飛ばされただかなんだかで、右足が義足で、松葉杖の簡易なものをつきつき外を散歩しては、よく僕に言ったもんです。
わしはなあ、戦争で足を取られたんじゃ。
戦争はいかんなあ、皆死んでしもた。
死んでしもたんや。
僕は首をすくめてこわごわと、お爺さんの足を見やっては気の毒そうに曖昧に笑ってみせました。
このひとは父方のお爺さんで、戦後のどさくさで起業して一夜にして富を掴んだ大成金なのです。
もう一人、母方のお爺さんはとっくに亡くなっていて、顔も見たことがありません。
いいえ違います。
赤紙は来なかったと聞いています。彼は思想犯なので。
生涯定職につかず、戦争にも行かず、本土で肺炎をこじらせて死んだそうです。
そうすると、僕としては死ぬ死なないに戦争は関係あるのだろうか、という疑問が湧いてくるのですが、それを片足のお爺さんに言うのは流石に酷ですから、黙ってお愛想を浮かべるしかないわけでした。
嫌な子どもですが、たしかに賢しらではありました。
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