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「お疲れ様でした」
自分用に建てられた天幕をめくり上げた相田は、すぐ傍で立っていたコルティに声をかけられる。
気が付けば、夜空に瞬く2つの月が天頂を越える程に動いていた。途中飲み物を含みながらの軍議であったが、相田は視界に入った椅子の前で振り返ると、今にも崩れ落ちそうに、だらしなく座り込んだ。
「疲れた………」
「ご苦労様です」
コルティがすぐにコーヒーの入った木製のコップを差し出してくる。匂いは苦いが、口に入れるとすぐに貴重な砂糖の甘さが舌を包み、そのまま喉を通り抜ける。
相田はコップを傾けながら、天幕の奥にある椅子に座る男に顎を向けた。
「特に問題はなかったか?」
顎を突くように動かし、見張りを兼ねていたコルティから報告を求める。
「はい。随分と前からあのままの姿勢でした」
2人の前にいる男は足を組み、片方の肘掛けに肘を乗せながら顔の側面を手で隠すように目を瞑っていた。
「ふぅむ………」小さく唸る。
相田はコップの中を空にすると、残った余熱を両手で感じ取りながら目の前の男を観察する。『生命』と呼んで良いものか分からないが、相田は自分の能力で彼を召喚した時のことを振り返った。
―――理想とする魔王。
物語に登場する数多の魔王やラスボスと呼ばれる中で、相田が最も魔王として参考にした存在。彼は自分のことを『大魔王』と呼んでいた。
「………元には戻せないかな」
その能力は未知数で、野望はさらに計り知れない。相田は彼の恐ろしさを物語から理解しているだけに、このまま放置することは危険だと口元を故意に歪めさせる。
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