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第三章 お給料が安いのにはワケがある
少々訳ありの奴らが集まっているという事を伝えようとしたら、紹介をしているだけでまあまあ時間が経ってしまった。一応、ランタンの私にも名前があってジャックという名前で呼ばれている。
遠くでネオンが灯ったようだ。そろそろ姉妹店、街の中心部にあるキャバレー「ハートのクイーン」が開店する。入れ替わりにここ場末の「スペードのジャック」は閉店だ。この場末のキャバレーの勤務時間は朝九時から午後五時まで。長時間勤務や深夜勤務などがないのでお給料は至って普通…からちょっと下ぐらい。
「買い物してレシート欲~し~い」
「いまどきの買い物と言えばキャッシュレスですし、そんなにレシートは重要視されていないかと。ウェブで履歴を見れば良いのでは」
「それに自粛で喫茶店がどんどん閉まっていく」
(…それが自粛です)
言葉に出さないが、やれやれ何を当たり前の事を言っているのかこの人はという顔をしながらカクさんがリリーの相手をしている。
「残念ながらしばらく自粛続きそうですよね~」
ゆっくりと丁寧に机を拭きながらバネッサも会話に入ってくる。
ここはダンスやコメディショーなどパフォーマンスを行うリハビリテーション施設。お弁当も提供している。病院から進められてここに来る人は多い、この街に住む人には馴染みの場所だった。バネッサはここにリハビリで通う事になり、介護施設を退職後、ここにアルバイトで働かせてもらっている。従業員募集の張り紙はリハビリへのお誘いだった。
前の介護施設は契約満了までいたので、大手を振って退職した。皆が嫌がる仕事をぶつぶつ言いながらもやってくれる、都合の良い一番下っ端の職員がいなくなるのは困るが、引き留める手段がないため、仕方なくバネッサの仕事を今いる職員で分割する事になったらしい。その時、バネッサの仕事は半分外部委託になり、残り半分が四分割された。
…そんなに分割する? と、これにはバネッサとコメットは目を丸くした。
途中で仕事を投げ出すように退職しても誰も責められない量だったと認めたという事だろうと胸がスッとしたので素振りの練習はしていたが、殴りに行くのは止めておく事にした。
自粛や休業要請が出て街の様子も変わってきた。ここはリハビリテーション施設なので、リハビリに来た人と接触しないわけにはいかない。利用者には時間をずらして来てもらい、交代勤務にして従業員を減らしながらも、万が一何かあったら街の病院へ連絡できるように対策を行う事になった。しかし街の病院もだんだん病床が埋まってきているという話だった。
交代勤務なのでお給料の事を心配したのだが、ここのママは
「緊急の時に現金は必要だから、普段からお給料を多めに渡していないのはこういう日のためってもんよ。少ないからこそ休業補償できる。少ない危険手当ですまないね」
と、勤務日が少ないのにいつもと同じ金額のお給料を二カ月出してくれる事になった。
(いつも多くお金欲しいなあ…)
(うまく言いくるめられる気もする…)
今までと同じ金額を貰えるとは相当ありがたい事である。補足すると街の中心部にある方のキャバレーはもちろん維持費がここの何十倍もかかる高級キャバレーだ。
もし人を探している場合、
「キャバレーで働いているらしい」
という情報を聞いたら昼間に開いているキャバレーと夜に開いているキャバレー、どちらに行くだろう。普通キャバレーと言われたら夜に開いているキャバレーを想像する。コメットは元カレがしつこくて事務職員を続けられなくなり、巡り巡ってここを紹介された。
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