第四章 キャバレーは秘密で出来ている

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第四章 キャバレーは秘密で出来ている

 もちろんネットに情報が溢れている時代、元カレはすぐにこの街にたどりついた。 「すいません、この街のキャバレーはどこですか?」  まったく怒りっぽい彼女でして、何が気に入らないのか。時々家出のような事をして僕を困らせるのが趣味のようでして。ははっ、こうやって迎えに来る僕の身にもなって欲しいものですよ、と聞いてもいない事をべらべらとしゃべっていた。怪我をしているのだろうか、手に包帯を巻いている。  そして案内されるのは夜のキャバレー。しばらく黙って座っていたが、店内を見渡しても彼女コメットはいない。イライラした様子で、 「おい! さっさと彼女を出せよ! こっちはわざわざこんな所まで迎えにきてやっているんだぞ!」  と喚き始めた。短気な男だ。 「お兄さんが見ているものが全てですよ。なんなら毎日通ってみます?」  キャバレーの綺麗なお姉さんはコロコロ笑いながら返事をした。  元カレは血眼になりながら、街の中をくまなく探した。しかしコメットの姿は一向に見当たらない。この街の人は情報を共有していて全員グルなので、コメットが見つかるはずがないのだ。 「あら、さっきまでいたのに。夕飯はコロッケだとか言っていたからお肉屋さんに行ったのかも知れないわね~」  この街の人達は噂話などを混ぜながら、ありとあらゆる情報で元カレを誘導した。昼間に開いているキャバレーは一見さんお断り。従業員が安心して働く事が出来るシェルターよろしく、昼間のキャバレーは案内人や紹介なしではたどりつくことができない。  少しずつ毒を混ぜられるように情報に振り回され、元カレは何が本当で何か嘘か分からなくなったらしい。情報は毒にも薬にもなる。 ―わた、わたし…さ、刺し、ささ、刺して… ―手を怪我しているのね。それはとても分かりやすいわ  この街の人達は、出来れば人に知られたくない情報が数えきれないほどある事を知っている。急いでコメットを場末のキャバレーへ隔離した。  大事な事なので二回言う、この街の人達は全員グルなのだ。なぜランタンの私がこんなに事情に詳しいかというと、私は二つのキャバレーを行き来している。ランタンが入口に吊るされているキャバレーが開店中の合図。情報に限界はない、情報が人を守る街なのだ。
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