時間がない。

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「痩せた? 気のせいでしょ。……あのさ、私、時間無いんだよね」    私はスマホの画面をタップした。   「時間? ああ、俺にもねえし。朝のジョギング行かねえと……」   「試合だっけ。ゴメンね。私、練習のジャマしちゃって」   「玄関でお前見たとき、俺、キュンとしちゃったよ」      えっ……。    私の中の時間が止まっていた。     「えっ、あ……私もなの」      さっきは私のオデコにあったレインくんの手のひらが、今度は私の頭をナデナデしてくれた。髪がクシャクシャになっていく。     「いつもだよね。レインくん……」     「えっ……」      頭を撫でるレインくんの手のひらが止まった。     「同い年なのに、レインくん、いつも子供扱い……」      ちゅっ……。      レインくんの固くて冷たい唇が私の唇に重なった。私は固まった。     「これでも?」      また、レインくんの手のひらが私の頭を撫でる。     「ずるいよ。レインくん……。不意打ちでキスなんて……」      溜まった涙のせいでレインくんが見えなくなった。      んぐっ……。      レインくんの唇に私の唇が覆われて、今度はねっとりとした舌で私の口の中を探り出す。身体が震えた。私もそれに答える。     「うるう、うるう、俺、お前が大好きなんだ」     「レイン……私も……」      ブーン、ブーン。      スマホのバイブが時間を知らせる。     「ゴメン、レインくん……本当に私には時間がないの」     「えっ……?」     「レインくん、ありがとうね。バイバイ」      :  :  :  :   「二十分……約束の時間よ」  透きとおるような声が私にささやく。      黄金の光に包まれる。    そして、見えないチカラに引っ張られるように、私はすうっと浮かび上がった。    地面がゆっくりと遠ざかる。      もし、一つだけ私の思いが残しておけるのなら、    せめて、彼が幸せでありますように……。 おわり
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