10人が本棚に入れています
本棚に追加
「痩せた? 気のせいでしょ。……あのさ、私、時間無いんだよね」
私はスマホの画面をタップした。
「時間? ああ、俺にもねえし。朝のジョギング行かねえと……」
「試合だっけ。ゴメンね。私、練習のジャマしちゃって」
「玄関でお前見たとき、俺、キュンとしちゃったよ」
えっ……。
私の中の時間が止まっていた。
「えっ、あ……私もなの」
さっきは私のオデコにあったレインくんの手のひらが、今度は私の頭をナデナデしてくれた。髪がクシャクシャになっていく。
「いつもだよね。レインくん……」
「えっ……」
頭を撫でるレインくんの手のひらが止まった。
「同い年なのに、レインくん、いつも子供扱い……」
ちゅっ……。
レインくんの固くて冷たい唇が私の唇に重なった。私は固まった。
「これでも?」
また、レインくんの手のひらが私の頭を撫でる。
「ずるいよ。レインくん……。不意打ちでキスなんて……」
溜まった涙のせいでレインくんが見えなくなった。
んぐっ……。
レインくんの唇に私の唇が覆われて、今度はねっとりとした舌で私の口の中を探り出す。身体が震えた。私もそれに答える。
「うるう、うるう、俺、お前が大好きなんだ」
「レイン……私も……」
ブーン、ブーン。
スマホのバイブが時間を知らせる。
「ゴメン、レインくん……本当に私には時間がないの」
「えっ……?」
「レインくん、ありがとうね。バイバイ」
:
:
:
:
「二十分……約束の時間よ」
透きとおるような声が私にささやく。
黄金の光に包まれる。
そして、見えないチカラに引っ張られるように、私はすうっと浮かび上がった。
地面がゆっくりと遠ざかる。
もし、一つだけ私の思いが残しておけるのなら、
せめて、彼が幸せでありますように……。
おわり
最初のコメントを投稿しよう!