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時間がない。
私は真っ暗やみの中にいた。
なんで……。
なんだか重苦しい不安な感じ。
闇にぽっと穴が開いた。そこが少し明るくなって、すうっと黄金の光が一筋差し込んだ。
その光に身体が包まれる。
身体の力がすっと抜けた。
足元に目をやる。
ドライアイスのように白い湯気のようなモノが立ち込めていた。
それは熱くも冷たくもない風が吹いているだけ……。
足元の白い湯気がすうっと解け始める。
その時分かった。足元のそれが雲だということを……。
足元の雲が全部なくなったとき、ぽっかり空いた雲の穴から自分の部屋のベッドに横たわる自分の姿が目に入った。
え、どういうこと……? 夢だよね。
「夢じゃないわ。結城うるう……」
女の人の透きとおるような声がどこからか聞こえた。
夢じゃないって……どういうこと……。
「今、あなたは、あなたの身体を離れてしまったの」
……って、死んでしまったの、私?
涙が溢れた。まだ、十八になったばかりなのに……。恋愛経験もないんだよ。
「あなたの感情はもうすぐ溶けてゆくわ」
溶けるって……。
「悲しいって感情があると、逝けないのよ」
もう一度、戻りたい。自分の身体に……。
「ごめんなさい。私には、それはできないの」
神さまでしょ?
「私は、神じゃないの。……ただの遣いの者だから……」
透きとおるような声が、申し訳無さそうに言った。
「じゃあ、二十分だけなら……」
二十分過ぎちゃったら?
「少し寄り道するだけ……あなたの運命は変えられないわ」
私の身体がその声に包まれる。身体がサッと温かい何かに撫でられたような気がして、私はすうっと雲の下に落ちた。
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