不器用ちゃんとその笑顔

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不器用ちゃんとその笑顔

 うちのコールセンターには、“不器用ちゃん”と呼ばれる若手の派遣社員がいる。  玩具のクレームを取り扱うこのセンターに、入ってきておおよそ半年。彼女がなんでそんな不名誉なあだ名をもらってしまっているかというと、単純明快。どんなクレームであっても、とにかく真剣に話を聞きすぎてしまうのである。  アルバイトでもなんでも、一度コールセンターに勤務したことのある人ならわかると思うが。コールセンターというやつは、いかに“短い時間に多くの対応を捌いたか”が問われる仕事なのだ。電話が繋がるのは、うちの場合十時から十七時時という七時間の間のみ。その間、限られた時間を少しでも有効活用することが求められるのだ。なんせ、回線の数は限られているのに、お客様はその時間にワーっと集中して電話をかけてくる。個人にあまり時間をかけていては、他のお客様がいくら電話をかけても繋がらない事態を招きかねない。ゆえに、いかに一人あたりの応対時間を短くするか?が重要になってくるのである。  で、話は戻るが。  僕の後輩として入ってきた“不器用ちゃん”。名前は杉崎瑠羽(すぎさきるう)。天然ボケでぽっちゃり、いつも明るくにこにこしているし仕事熱心だがドジっ子。けして憎まれるキャラではないのだが、彼女にはちょっと困ったところがある。  一度の応対時間が、他のオペレーターと比較して長すぎるのだ。  それこそ、誰がどう聞いても“いやいやいやうちの会社は悪くねーだろ!”と思うようなクレームにも、非常に真面目に対応してしまう。それこそ、こっちがリアルに、物理的に対応が厳しい状態になっても絶対に電話を切らないときている(コールセンターでは基本的に、お客様が電話を切らないとこちらから切ってはいけないというルールがあるのだ)。先日、ちょっと大きい地震があった時もそう。彼女はみんなと一緒に机の下に隠れながらも、一生懸命電話を続けていたほどだ。いくらなんでもあの状態なら、お客様に断りを入れて電話を切っても叱られなかったと思うのだけども。 「ねえ、杉崎さん」  断じて悪い子ではない。ちょこちょこ失敗はあるけれど、何事にも一生懸命だし、玩具の名前だって新商品が出るたび覚えようと誰よりも頑張っている。  ただ少し、融通がきかない。電話を早くお客様に切ってもらう努力ができない。だから僕は、これも先輩の務めと彼女に告げたのだ。まあ、散々チーフの先輩などからも注意されていることではあるだろうけれど。
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