勧誘

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午後8時。 ようやく職場から解放された俺は同僚と共に、会社から近い場所にある居酒屋で一杯飲んでいた。 「しかしなあ・・・。」 「どうした?」 独り言のように呟いたやつの言葉に俺は反応する。 「お前、結婚願望とかないわけ?」 ガラスのコップをもっておどけたようにやつが言う。 「お前みたいな20代前半で結婚したやつは羨ましいと思うよ。」 そう言うとやつは「いやいや。」と首をふった。 「第1さあ、早い結婚って自由にできない!」 「こうやって飲んでるじゃねえか。」 「そう言うことじゃない。うちは妻もいるし子供もいるんだよ。」 確かに子守りとかも大変そうだ。 「でもまだ30代だしそういうのは今はいい。」 「お前の言いそうなことだよ。」 ハハハとやつが笑う。 「お前も彼女、この前いたじゃん。ほら、同期のかわいこちゃん。別の部署移ったっけ?」 「知らん。今は連絡取ってない」 会話が途切れる。 やつはやけにニコニコしながらビールを飲んでいた。 そして、少し談笑もしながら飲むこと3時間。 酒があまり好きではない俺はコーラを飲んでいた。   その時 ピロリン やつの鞄からメッセージの通知音が流れる。 やつはまだ気づいてないようで、注文したタコの唐揚げを受け取っていた。 「おい!」 受け取って食べようとしているやつに声をかける。 「何?」 「メッセージ来た音したけど。」 「あーあー。ホントだ。」とか言いながらやつはスマホをとる。 「やっべ!」スマホを見たやつの顔が真っ青になる。 「妻がお怒りです」 言い終わる前に片付け始める。 そして、頼んだままのタコの唐揚げを俺に渡して鞄を肩にかけた。 そして去り際になにかを思い出したように俺に耳打ちしてくる。 「お前、お前と同じ部署の橋本って知ってるか?」 「知ってる。同期でたまに話すくらいだけど。」 「あの人、お前に気があるらしいぜ。」 ニヤリとやつが笑う。 「じゃあな。」 そう言うとあいつは全速力で家へと帰っていった。 「結局無駄な情報残して金残してかえってねえ。」 俺の奢りか? そんなことを思いながら、その居酒屋を出たのは12時頃だった。 この後起こることなんて誰が予想できた?
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