20人が本棚に入れています
本棚に追加
彼女の顔を見たことがある、確か同じ講義を専攻していた杏奈。
「……ッッ、死なせて下さい。もう私には何もないんです。愛していた男に騙されて、借金までしてしまった……ッッ。父さんと母さんは離婚して私はどちらにも引き取られなかった。生活していく意味もお金もないんです」
何て悲惨な、でもまって、それなら彼女を……そうだ。
人生を諦めている彼女をみて、私はあることを思いついた。
「ならあなたの人生を私に頂戴」
そう彼女へ微笑みかけると、鐘の音が今までよりも大きく頭の中で響き渡る。
私は咄嗟に彼女の体を抱きしめると、視界がグラリと傾いた。
成功するかわからないけれど……ッッ。
彼女を離さぬよう必死に抱きすくめる中、次第に意識が遠のいていくと、聖堂で感じた時と同じ暗闇の中へと落ちていった。
最初のコメントを投稿しよう!