夏の記憶「うそつき」

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大きな三角形の描きを黒に潜ませ輝く星座達と (またた)く小さな光が点在する夜空に有る ぼんやりと輪郭を隠す満月の柔らかい明かりの下  私が握る手持ち花火の白き火は 激しく発光し 暗闇に隠れた足元からの影を 砂利の上に鮮明に浮かび上がらせ 空間に漂い揺れる 濃煙な煙は私の顔に僅かに重なり ジワリと目頭に鈍く染みた 短く切ったばかりの肩までの髪が 微かになびき 私の白い頬を貴方の代わりに わずかに撫でる 色鮮やかな火は 次々と生まれては消える パチパチという 重なる彩色の熱命を燃やす音 背後のカーテンの隙間から漏れる窓灯が照らす 赤茶色のブロックの端に存在する 湿った草むらの世界の中で 今を奏でる虫達の  夜空に向けて祈る 儚い賛美歌は 小さな庭に花火片手に 一人しゃがみ込む 私の寂しさを慰めてくれた
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