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 いつも常備してある紫色のプラスチックケースに入ったクレンジングシートが見当たらない。  「まあ、お風呂にリキッドのクレンジングがあるし」  クレンジングシートのために、わざわざコンビニエンスストアまで行くなんて、ありえない。  かといって、特にやらなければいけないことがあるわけでもないから、紘くんからのラインが来ないかな、なんて思っているうちに眠くなって、うとうとしてしまった。  カチャカチャ、と玄関で鍵の開く音がして目が覚めた。ドキッとして耳をそばだてると、細く開いた玄関の隙間から、廊下で話している声が漏れ聞こえてきた。  よかった、何を言っているのかは分からないが、一人は(こう)くんみたいだ。  「ありがとうございます。じゃあ……」という最後の挨拶だけ、はっきり聞こえた。  ギイ、と小さく音をたてて、ドアが開く音がする。  バタン、と玄関のドアが閉まるのを確認してから玄関に向かった。マンションの廊下にいるらしい誰かと顔を合わせるのは、億劫(おっくう)だったからだ。  「紘くん! 来てくれたの? 嬉しい!」  玄関に走り出ると、靴を脱ぎかけていた紘くんが、驚いた顔で私を見あげ、それから私の大好きな、困ったように見える笑顔で笑ってくれた。  抱き付こうと思ったけれど、紘くんの手が荷物でふさがっているのに気が付いてやめた。紘くんは靴を脱いで部屋に上がると、いつものようにフローリングに敷いたカーペットに腰を下ろした。ベージュのソファに寄りかかると、リモコンを手に取ってテレビを点ける。  「紘くん、何か飲む?」
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