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  つい早口になった。まくしたてる、というほどではないが、調子よく言葉を繋ぐ。  「そうですよね! 運んでくるのは洋服くらいですから」と、彼女が笑顔で答えるのを見て、最後にもう一押しすることにした。物件の方に迷っている時間はないのだと思わせよう。  「だけどね、ワンルームは大方、人気ないんだけど、ココは例外。昨日も一人、案内したばっかりなんだよ。その人は返事待ちになっているんだけどね。早い者勝ちだから、この部屋がよかったら、申込書入れちゃった方がいいかもしれないよ」  流ちょうに嘘の説明をしながら、さりげなく決断を迫る。  シャラン、と微かな音が窓辺で鳴った。誘われるように窓を大きく開け放って、風を入れた。  彼女は気持ちよさそうに風を顔に受け、あれ? と首を傾げた。  「潮風……?」  「そう。気持ちいいでしょ。海が近いんだよ、ここ。だからサーファーなんかにも人気があってね、自転車置き場の横に、ボード置き場もあって……」  「あの」と彼女がセールストークを遮った。「昨日も見に来た人がいたって言いました?」  しめた、と心の中でにんまりとする。  「あー、うん。申込書は入れていかなかったけど、けっこう、気に入ったみたいだったよ。だから本当はあなたを案内するのもどうしようかな、と思ったんだけどね。まだ申込書が入っていなかったからねえ……」と黙り込む。  「申込書ってなんですか?」
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