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 「うん、まあキャンセルも出来るけど、借りる意思がありますよ、って示すための書類かな」  「あの、申込みするためには、何か必要なものがあるんですか?」  「いや、書類に必要事項を書いてもらって。契約に来られる日を大雑把に決めてもらえればいいから」  愛想よく答えた。心の中ではガッツポーズしているのだが、彼女はそんなことには気が付かずに、感じのいい笑みだとしか思っていないはず。  「じゃあ、事務所に帰ってこの書類にサインしてくれる?」  「はい! あの、窓にかかっているモビールは」  「あ、あのサンキャッチャーの事? 前に住んでいた人が置いて行っちゃったんだ。綺麗だから、捨てずにそのままにしてあったんだけど、片付けるよ」  窓に近寄りながら、ガラスの飾りに手を伸ばした。背が高いおかげで背伸びをするまでもなく手が触れると、窓飾りがシャラシャラと音を立てた。  「あの、そのままでも」  「えっ……」  「綺麗だから、そのままでいいですよ」  「いやあ……でも」笑顔を顔に貼り付かせ、窓飾りに手を伸ばしたままでいた。この窓飾りは入居者が決まったら持ち帰る、と母親と約束している。  「そのサンキャッチャー、もらっていいなら、このお部屋、借ります」  女性はおどけたように言ったが、あながち冗談でもなさそうだった。  「ああ、そんなら」  まあ、いいか。本人の希望なんだから。そう思って手を引っ込めた。オレの手を離れた窓飾りはくるくると回り、床に色とりどりの光をまき散らした。狂ったように光が(おど)る……。
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