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どこへ、と聞こうとして口をつぐむ。幼い子に聞くことじゃないもの。そもそもあたしには、こどもはいない……まだ。でも甲高い声なのに、とてもはっきりと言う。
「でも……ここにいるのがいちばん幸せだってあの人が……」
そう口に出してから考える。本当にそう? この子はだあれ?
「ママ」
わたしの考えに抗議するかのように、繋がれた手にぎゅっと力が込められ、揺さぶられる。この子はだあれ?
シャラ……
こんなに熱いのに、どこかからか涼し気な音がした。
そうだった。この子はあたしの子だ……。まだ生まれていない、たまごのたまちゃん。たまちゃんの小さな指が、光を指差している。
赤、黄色、青、緑、紫……色とりどりの光が躍る。楽し気にダンスしているように……。あたしは光に手を伸ばし、つかんだ、と思ったところで意識を失った。
それを慈悲深く待っていたかのように、火があたしの体を覆い、焼き尽くした。
あたしは何も望んでいなかった。何もいらなかった。ただ……、だいすきなあなたとふたり、生きていければそれでよかった……のに。
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