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 家や建物の写真や賃貸料金が書いてある広告が、窓ガラスにベタベタと貼られているせいで、差し込む日差しが不揃いな格子柄の模様を床に落としている。  店舗の横を通り過ぎて行く車が光を遮ったのか、即席に描かれた格子柄の影模様がチラチラと躍る。くらりと眩暈がして、よろけた。  (窓に貼られている広告のせいで、どうせ外からは店の中の様子は見えないんだ。いいじゃないか。もう少しの間、押し問答をしていたって、通りがかりの通行人や、通りに並んでいる他の店の目にとまる訳じゃなし……)  やっぱりもう少し粘ってみよう。  そう思って、カウンターの上に乗せられた細長い箱を手でいじった。それからおもちゃをねだるような口調で話しかけた。  「ただのおまじないだと思えばいいじゃない。ねえ、今月、キツいんだよ」  母親は苛立ったように、人差し指で新聞の紙面をカツカツ、と叩いた。つられて紙面に目を落とすと、新聞に載っていた写真が、女性の手の下でぐしゃりと歪んでいた。年齢のわりに精力的な男性が、やけに白い歯をむき出しにして、笑顔を作っている。  「へえ! 灰宮さん、今度、市長に立候補するんだ。だから苛立っている訳? 嫌いだもんな。だけどこの辺の大地主なんだし、仲良くしておいた方がいいんじゃないの? 昔は灰宮家とも付き合いがあったんでしょ?」  「関係ないよ。昔からあの家は、女関係がだらしなくてさ、アタシの友達も手を付けられて、結局、泣き寝入りさ。いくらお金を持っていたって、アタシは嫌いだよ」  母親はフンと鼻から息を吐き出した。  
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