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花人形、それが菫の正体なのだという。人間ではない。
菫との出会いを、由香はいつだって夢のように思い出せる。春先の夕暮れ時、その日の接客に疲れ果てた由香は、帰宅路にある河川敷に座り込んでぼんやりと流れる川を眺めていた。そこに突然彼が現れたのだ。
やたら顔のいい男性がやってきたな、と思ったら彼は由香の傍に生えていたスミレの花を摘み始め、それを頭上に掲げ持つと口を開いてその中へ、ぱらぱらと落としていく。淡い紫色の小さな花が、羽根のように舞いながら彼の口の中へ吸い込まれ、咀嚼され、真っ白な喉が嚥下していく様まで由香は見つめ続けた。あまりに現実離れした光景に、動くことを忘れてしまっていた。
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