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想像してみる。
商店街の一角にある小さな花屋さん。そこを切り盛りするのはかわいらしい若夫婦だ。妻は由香の、夫は菫の姿をしている。訪れる客は菫の勧める花に喜び、由香が作ったブーケに感激する。そして夫婦の見事なタッグを羨むのだ。それが現実だったならと夢想する。
なのに、現実はいつだって無情なのだ。
「もう、ここには来れないと思います」
菫はその日、来店してすぐ由香にそう言った。
マスターから、あまり一個人と関りを持つなと言われたらしい。そこにどういう意図があるのかわからないが、もう二度と菫と会えないと思うと目の前が真っ暗になった。そうしてとある花を今日の分だと彼に差し出す。花の名前はグラジオラス。そこにクローバーも添えて。
――花言葉は『忘却』と『私のものになって』。
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