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猫は気ままにどこへゆく
野良猫みたいな人だ。ほら、たまにいるだろう。寄ってくるのに、触ろうとすると逃げていく子。
新居に越したその日に、アパートの管理人さんに言われた。
私はよくわからず、「あぁ、どうも。」とだけ返した気がする。管理人さんはにっこりしていた。
それから、休みの日は野良猫を観察するようになった。
茶トラ、白ブチ、尾長に黒いの…
新居の近くには野良猫が多かった。前にいた所は、近隣住民が野良猫に厳しくてほとんど寄り付かなかった。ここはそうでもないのかも。
そして…
「お前はどこにでもいるんだな…」
道路の端の端、空き地の隅、アパートの駐車場のアスファルトのひび割れから、そいつは小さな花を揺らしてる。
駐車場に咲いているそれを眺めていると、停めてあった車の下から一匹の猫がひょっこり顔を出した。
私をしばらくじっと見つめてから、すたすたと歩み寄ってくる。…痩せてるな。
「ご飯は何もないよー。」
撫でようと手を出すと、するりとかわして、逆に長いしっぽで私の手をじっっくりと撫でてそのままどこかへ歩いて行った。
猫の尻尾は、少し毛先が固く、やわらかく、ほんのり暖かかった。
私はこの猫のことを「はじめ」と呼ぶことにした。
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